第13話 と言うか。




セオドアの突然の「イアーゴを船に乗せる」宣言からはや7か月。


それから3回セオドアの船は出港して帰港して、その度セシリエとハワードは父からイアーゴの様子を聞いていた。


今やすっかり船員たちに馴染んでいると聞き、2人はちょっと驚くと同時に、面子を思い出して納得もした。

セシリエもハワードも、昔、何度か父に連れられて船員たちと会った事があるからだ。


強面マッチョが多いけれど、話してみると意外と優しくて面白い。セオドアの人選によるものか、皆、カラッとした性格で人がいいのだ。



「平民で、しかも船乗り。自棄を起こすか、すぐに音を上げるかのどちらかだと思ってたけど、意外とすんなり馴染んだね」



飲み物の入ったグラスを傾けながら、セシリエの兄ハワードが言う。



「ええ本当に。私なんて、もしかしてお父さんたら航海中にイアーゴさんを船の上から海に突き落とすつもりじゃ?なんて心配した時期もあったのよ」


「あ、それ実は俺もちょっと思ってた。けど普通に無事に帰って来て拍子抜けだったな」


「まあなんにせよ、イアーゴさんの方は丸く収まった様でよかったです」


「ああ、イアーゴの父親の方はまだまだ揉めそ・・・」


「さっきからイアーゴ、イアーゴって・・・そんなに前の婚約者の話ばかりしなくてもいいじゃないですか」



コト、とケーキを載せた皿がテーブルに置かれると同時に、不機嫌そうな声が降ってきた。


紺色の腰エプロンをつけたエーリッヒだ。


そう、今セシリエとハワードがいるのは、アーノルドが勤める例のケーキショップ。情報ギルドが陰のオーナーであるあの店だ。


もう情報を得る必要はないのだが、すっかり店のケーキの味を気に入ったセシリエは、今は普通に店に通う常連さんとなっている。


そしてエーリッヒは、学園卒業後、この店で給仕のアルバイトをしているのだ。



彼の夢であるケーキショップのオーナー、その資金集めの為である。


正式なスタッフでないのは、他にもアルバイトを掛け持ちしているから。驚くなかれ、なんと合わせて4つのアルバイトを頑張っているのだ。

それでも、働き始めて1年半経った現在で、貯金額は目標の三分の一。夢の実現までは、まだもう少しかかりそうである。



という訳で、以前にエーリッヒがセシリエに言った、「婚約解消のお祝いのケーキを僕の店で」という約束も未だ果たされておらず。



このままではいつまで経ってもケーキの約束が果たせない、とエーリッヒが内心焦っている事をセシリエ本人は知らない。



「いやそういう心配より先に告白だろ」とハワードとアーノルドから陰でせっつかれている事も。



―――というか。



そもがそも、エーリッヒがセシリエに実はほのかな恋心を抱いている事すら、セシリエは知らない。






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