第11話 自分だけが大事な男


ロドリゴ・ドミンゴはセオドアとの面談を希望したが、あいにく彼は船の上。

頻繁に家を空けるセオドアがすぐに捕まる筈もない。


結局、対面が成ったのは、最初の手紙が届いてから約ひと月後だった。




ハンメル商会の談話室に現れたロドリゴは、セオドアを見るなり頭を下げ、どんな形でもいいから取り引きを再開してくれと言った。



「条件は全て飲む」



頭を下げたまま、ロドリゴは続けた。



セシリエとイアーゴの婚約がなくなり、ハンメルとドミンゴの事業提携もなくなった。


慰謝料なしの婚約解消だったが、セオドアは怒りを表すかの様にドミンゴとの取引を全て切った。当然、ハンメルが持つ国内外の販路も使用出来なくなった。


だがここで、他商会や商家がそれに反応する。

ドミンゴとハンメルが決裂したとして、彼らもまたドミンゴから離れ始めたのだ。とばっちりを恐れての事だった。


ドミンゴは歴史ある商会ではあるが、今や大商会と一つとなったハンメルとでは比べ物にならない。より力がある方を彼らは選んだ。


もちろんセオドアは他がドミンゴと何をしようが気にもしない。彼らの勝手な忖度である。




「ほう」



セオドアは顎を摩りながら少しの間考えると、再び口を開いた。



「なら、お宅のバカ息子。アレを俺が貰おう」


「・・・あ、ああ、もちろん・・・? は? え? 息子・・・イアーゴを、あんた、に・・・・?」


「ああ」



ロドリゴの顔色がサッと悪くなる。



「え? なんで、まさかあんた、だ、男色・・・?」


「はあ? 何を馬鹿な事を言ってるんだ、そんな訳ないだろう。俺は妻ひとすじだよ。あんたと違ってな」


「っ」


「俺の船で働かせる。一生うちで使うから、商会の後継は他を探す事になるがな。それでいいなら、あんたと取引きを再開してやってもいい」


「・・・それは、だが」


「悪いがそれ以外と言うなら、他に思いつかないから話はここまでとさせて貰おう。で? どうする? あんたんとこのバカ息子をよこすか? それともこのまま帰るか? 俺はどっちでもいいぞ?」



ロドリゴは俯き、暫し考える。



「・・・だが、その、今あいつは」


「そろそろ治っただろう? 初期で見つかったから軽症だと聞いているが」


「っ!」


「船の上なら女も抱けない。アレには丁度いい環境だと思うが?」



知っているのかと目を見開くロドリゴに、セオドアは薄く笑う。



「大体、商売について何も学んでないアレを後継にしたら、一年であんたんところは潰れるよ。どうせ、お飾りにして代替わり後もあんたが実権を握るつもりでいるんだろうが、分かっているのか? 普通は親の方が先に死ぬんだぞ?」


「・・・」



答えないロドリゴに、セオドアはこれ見よがしの大きな溜め息を吐いた。



「ロドリゴ・ドミンゴ子爵、あんたはいつも自分の事ばかりだな。妻も放置、息子も放置、挙句、死んだ後の事なぞどうでもいいから考えないと?」


「・・・」



それでも答えないロドリゴを見て、セオドアは立ち上がる。



「別にあんたたちがどうなろうと俺は構わん。息子の代で潰す気なら、少し早まってあんたの代で潰れても、こっちには大した違いがないしな」



そう言って背を向けたセオドアに、ロドリゴが慌てた様に口を開く。



「わ、分かった。分かったからーーー」





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