第3話 幸福

 小麦の焼けた匂いが、好きだった。


 笑顔を見るのが、好きだった。


 でも、一番好きだったのは。


『──』


 名前を呼ばれることだった。


 いろんな好きに囲まれていた。


 幸福だった。


 こんな幸福な日々が、永遠に続いてほしい。と、思うはずなかった。


 だって、終わるとは思っていなかったから。


 常に幸福を願う者は。


 不幸を知る者だ。

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