研究所

「さて、本題に入りましょうか」


ニヤニヤしていた公爵様とルース兄様はぱっと真面目な顔に変わる。

しかし、すぐに気を抜いて破顔する。


「まぁ、本題と言ってもリック君?あなたの意志を聞くだけだけどね」


「あ、はいっ!」


僕は膝に置いている手に力を籠める。


「まぁ、私たちとしても、ぜひ確保したい人材ですから。あなたがはいと言ってくれればすぐに受け入れできますよ?」


ニコニコと柔らかい笑みで公爵様はそう言ってくる。


「だとさ。リック、後はお前が決めることだ!」


「……僕は——」


そして、それから翌日。


僕は揺られる馬車の中にいた。


「いくら何でも早すぎませんか……?」


「何、善は急げと言うだろうに。こんな良い実験た……ゴホン、助手を活用しないわけがない」


「今、実験体って……」


「気のせいじゃ」


僕は、公爵様、もといハイント様の助手として、今日から研究を手伝うことになった。


「でも、こんな僕にお給金までいただけるなんて……!」


「価値ある仕事には対価をもって応える。当然の事じゃ」


ガタゴトと揺られる馬車。


「それにしても、ルース君は変わらんな」


ハイント様はそうポツリとつぶやく。


「私の研究の手伝いをしていた時も事あるごとに妹、弟の自慢。家族の自慢をして、嫉妬するミュリエルを甘やかすのまでで一セットだったな」


「そ、そうなんですか……」


「まぁ、研究室なんてそんなもんじゃ。そんなにガチガチに緊張する必要もない」


「は、はい……!」


そうは言われてもやっぱり不安な物は不安だ。




馬車が研究所に到着する。


いよいよ、僕の初仕事である。


ルース兄様の顔に泥を塗らないように一生懸命頑張らなければ!


そう思って、ハイント様と一緒に研究所に入ると、ワッと周りを囲まれた。


「ねぇねぇ!君が噂の子!?無限に魔力が使えるんだって!?」


「ぜひ、私の研究に協力してほしいんですが!」


「いえいえ、私の研究こそお願いします!!」


「うわっ!?」


研究所の人たちは僕を見るなり目の色を変えて突撃してくる。


そのたびに、ハイント様が、「こらこら、その子は私が見つけてきた子ですよ?まずは私に話を通すのが筋では?」と言って追い払ってくれるが、それでも人が止む気配がない。


皆、凄い熱気だ。


どうにかこうにか人をさばきつつようやく僕とハイント様はハイント様の研究室にたどり着いた。


中には、ミュリエルさんがいる。


「あれ?ミュリエルさん?」


「あら、リック君、いらっしゃい。外、大変だったでしょう?」


どういうことだろう……?


「あぁ、ミュリエルも研究者なんだ」


「え、そうなんですか!?」


「えぇ。ルースは『やりたいことが有るならやれば?公爵夫人としての仕事もそこまでないし、余裕はあると思うよ』って言ってくれて……」


少し頬を赤らめながら、そう答えるミュリエルさん。


「それなら、好きな魔法についての研究をして、世の中がもっと良くなればいいと思い……」


「へぇ、そうだったんですね……!」

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