魔法の研究

「それじゃあ、説明に入るけど大丈夫?」


「は、はい!大丈夫です!」


僕はできるだけ力強く返事をした。

今からどんなことをするのか分からないけど、がんばらなきゃ!


ぐっと拳を握ると、ハイント様は一冊の本を取り出した。


「それじゃあ、説明していくね」


ハイント様は、取り出した本の一ページを僕に見せる。


「これは、大昔の伝承を一冊の本にまとめた物なんだけどね。この中の一節が私の現在の研究対象なの」


そこには『古の戦士ハテム、万を超える軍勢に対し、魔法を用いずに己が最期の覇を打ち立てる』と書かれている。


「え、この人は魔法を使わずに敵を倒したんですか!?そんな人、実在するんですか……?」


「確かにリック君の言う通り。実際問題、この人物は存在しないと言われている」


……やっぱりそうなのか……。

僕がそう思っていると、ハイント様はピンと指を立てた。


「しかし。煙の無いところに噂は立たんというだろう?そう思って少し調べてみたところ、面白いことが分かった!」


面白い事?


「それって何ですか?」


「このハテムという人物、他にもいくつかの伝承が存在している」


「え?」


「それもある程度関係性のないような離れた地域にそれぞれな?」


「ということは……?」


「ハテムという人物は、実際に存在していた可能性があるということじゃ」


「じゃあ、伝承も本物である可能性があるってことですか?」


「そういう事だな」


はぁ……。

いまいちピンとこないなぁ……?


「それと、ハイント様の研究とに何の関係が?」


「まぁ、まぁ、本題はここからじゃ。では、彼はどのように伝説を成し遂げたと考えられる?」


「それって、さっきの万の軍勢の話ですよね……」


魔法を使わずに敵を倒したという戦士ハテムの話。

魔法を使わないでそんなことは不可能であることは明白だ。


「そうじゃな。私はこう考えている。『戦士ハテムは、外部に働きかける魔法を使わなかったのではないか』という事だ」


「外部に働きかける魔法?」


僕がそう聞くと、ハイント様はにこっと笑う。


「言わば、魔法の炎を敵に撃ち込んだり、魔法の水で敵を押し流したり。そういったことをしなかったという可能性だ」


「それって……?」


ハイント様はびしっと僕に指をさす。


「つまり、身体強化の魔法を使ったという事だ」


「身体強化?」


「そう、肉体を魔力によって強化する、構造的には基本的な魔法でありながら、使用されることはない魔法の一つである」


……初めて聞いた。

そんな魔法もあるんだ……。


「使われることは無いって……」


「それはな、この魔法の燃費が著しく悪い事にある」


ハイント様はため息をついた。


「この魔法は長い間研究されながらも、そう言った省魔力化が解決していない魔法じゃ。この魔法の消費魔力は自分で指定可能だが、それに対する見返りが少ない」


ハイント様がスッと息を吸うと、ぴょんと跳んだ。

そして着地すると、今度はもう少し力を込めて、跳ぶ。

しかし、跳んだ高さはさっきより少し高いくらいだ。


「一回目が魔力を1込めた場合。二回目が魔力を500込めた場合じゃ」


「え……?」


てっきり、二回目は2とか3とかだと思っていた。


「見ての通り、500込めても身体能力に大きな恩恵は見られん。さらに悪い事に、あのまま行動しようとすると、毎秒同じだけの魔力を消費してしまう。悪いなんてもんじゃないだろう?」


「それは……」


確かに最悪の魔法だ。

でも、なんで……?


「じゃあ、なんでこの魔法が伝承に関わっていると思うんですか?」


純粋な疑問をハイント様にぶつける。


「それはな……」


―――――――――――――――――――——————————————————

次回更新は8月6日です!

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