第5話「もう一つの未来」

八時五十五分。ミライの予知能力によってサエの失踪と言う未来は変わった。

代わりに失踪者、早川コハルの死亡が確定する未来になった。


「志賀ナオトの死か…それも殺される直前…」


話を詳しく聞いたナインとシュウ。今、この場には彼ら二人しかいない。


「しかし、この白銀荘に井戸なんてあったか」

「内装も全て把握しているわけでは無いからね。僕たちが知らない場所も

あるかもしれない」


それ以外にもシュウには気になることがあるらしい。それはこの白銀荘の

持ち主である鷲尾藤三郎。彼と対話をしたシュウは藤三郎に疑念を抱く。

どうにも彼の態度に不自然な部分があった。今回、コハルの死体が見つかった

ときもあれだけ騒いだのに部屋から出て来なかった。


「こういう時に都合よく能力が使えたら良かったんだけどね…」

「仕方ないさ。何もかもが上手くいくはずが無いから。彼が怪しいと言えば、

随分と外部からの侵入はあり得ないと否定をしていた」

「防犯対策バッチリだから?」


シュウの言葉にミライは首を傾げて言った。そうとも言えないだろうと彼は

考えているらしい。


「と、言う事だから今から外に出よう」


シュウの先導でミライたちは館を出る。真っ暗な時間。彼らがやって来たのは

館を取り囲む壁の前。ここをよじ登る事が出来るだろうか。シュウはナインに目を

向けた。


「登れない事は無さそうだ。鉄線も無い、足場もある」


門の前に移動する。軽く足を引っ掛けるミライ。


「ちょっと怖いけど、乗り越えられそう」

「門番がいる訳でも無い。館内には防犯カメラが幾つかあったけど万全では

無いんだ。侵入することは出来る。それぞれの個室にはカメラが無い」

「…館内の誰かが犯人だったら、カメラの位置も把握しているし躱すことが

出来そうだよね。言い出しっぺとか…」


遠回しにナナミを提示した。彼女だと断定することは出来ない。外から誰かが

侵入しているというのも否定できない。この日、突然現れた死体。現れるまで

一体何処に隠れていたのだろうか。

探すべきは隠し場所。そしてミライが予知した井戸だ。二階の部屋から

カルミアと言う花が見えた。井戸は壁沿いにある。外壁に沿って三人は

歩く。館の裏手に回ると、ミライが見た井戸があった。


「本当にあったな。そして、動滑車か。これを使って犯人は絞殺をする…

それも夜だな」

「うん…犯人の顔までは分からなかったけど男の人だと思う。サエさんの時とは

別の人だったんだ。あ、後…確認したいことがあるんだけど」


ミライの確認したいことは鏡の間にある。本の謎もそうだが他に犯人と思しき

人物が弄っていた時計と鏡を調べたい。井戸の場所を知ることが出来た三人は

井戸の前を通り過ぎようとした。だがミライが月明りを何かが反射していることに

気付き、それに近寄った。


「指輪?」


銀色のリングに赤い宝石が嵌められている。指輪をよく見ると名前が

刻まれていた。


「…」


ジッと見定めるように目を凝らす。


「この指輪…ナナミって書かれてる」

「ナナミ?彼女の指輪か」


井戸の近くに落ちていた指輪。土を払って、ミライはポケットに入れた。

この指輪はしっかり彼女に返す。ここをナナミが通ったということだ。

そして翌朝。

起きたシュウが最初に顔を合わせたのはサエだった。彼女は目を丸くする。


「おはようございます。随分と早いですね」

「早起きなんですよ、僕。折角こんなに広い場所だし、散策でもしようと

思ってね」

「そうでしたか。八時三十分には朝食が出来上がりますので」

「ありがとう」


サエと別れて、シュウが向かった先は先日ナインが仕込んだもの。カメラの死角に

なる場所。そこに隠されたものを確認する。何が無くなったか。高価な壺がそこに

置かれている。そっとそれを動かして、やはりか…と納得する。仕掛けたものが

無くなっていた。誰かが取り外したらしい。

館内に仕込まれた監視カメラの映像は何処で確認できるのだろうか。

さて、朝食の時間になった。まだまだ眠気の抜けないミライだが表面上は

目が覚めている状態を装っている。だが少し空気が重い。当然だ。昨日、一人の

死者が確認された。


「藤三郎さん、警察へは連絡しましたか」

「え、えぇ、ですがここは山道にありますので遅くなると…」

「遅くなる…どれぐらい掛かるか言っていましたか?」


シュウが聞くと彼の表情に僅かな焦りが見える。あれ、彼以外にも焦りを

滲ませている人物がいる。藤三郎が口を開く。


「三日は…掛かると…」

「三日!?」


ミライが思わず声を上げた。


「ここに近い場所には交番が無くてね。遠くから来るんだよ」

「そ、そうなんだ…」


ミライも違和感を覚えたらしく、何か納得できない様子だ。彼の言葉が

信じきれない。もしかして警察が来ると不都合な事があるのではないかと

疑いたくなる。それは彼女だけでなくシュウやナインも同じ。


「私から、連絡をしておいたよ。本当にあの人が警察に連絡したのかすら

怪しいからさ」


彼女は携帯のLINE画面を見せた。彼女の探偵業務を滞りなく遂行するために

根回しをしてくれる警察がいる。彼に連絡をすると一時間もあれば白銀荘に

来ることが出来るらしい。彼が来る前に色々調べるべきことがある。

三人は鏡の間の扉を前に立つ。ナインの先導で部屋までやって来た。この時間、

メイドたちはそれぞれ個室にいることを実はシュウが独自に調べていたのだ。


「でも、一体どうやって?」

「そこは、鷲尾藤三郎に取り入ってね。彼が寝ている隙に色々調べさせてもらった」


時間を遡る。彼が早起きだとサエは言っていたが、彼は徹夜していたのだ。

時刻、午前一時五分。全ての従業員が眠りに就く時間帯。

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未来は名探偵 花道優曇華 @snow1comer

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