第49話 ワールド一位の苦難
第一エリアのボス四匹目。
炎と氷を吐きだす魔物、ツインヘッドドラゴンに対し、俺とティティが前線で戦い、千春が後方から精密な狙撃で攻撃。ヤックルは配信の解説しつつ、ときおりおねだりだ。
ブレスの範囲攻撃を躱すのに体力を少しとられていしまうが、ティティが加わってくれたおかげでパーティ全体の攻撃力が増加し、このボスも問題なく倒せそうで安心した。
「――かはっ」
「ティティ!?」
そんな暢気なことを考えていると――不意にティティが敵の尾の攻撃を正面から浴びた。彼女は転がりながらも受け身を取って衝撃を和らげていたようだが、結構な痛みがあったようで苦し気な表情を浮かべている。
「どうしたんだティティ!? いまの攻撃なんて軽く躱せるだろう!?」
つい先ほどまでは本当に無駄なく回避をこなしていたというのに、敵の『躱してくれ』と言わんばかりの大振りな攻撃を喰らっていた。いったいどうしてしまったんだ?
素早く立ち上がった彼女は、ツインヘッドドラゴンが繰り出してくる追撃のブレスを、険しい表情で避ける。
「すまない。敵のブレスを吐くときの音がパチンコ筐体から出てくるウーファーの音に酷似していて、つい大当たりがきたのかと興奮してしまった」
「アホかこの中毒者!? 今は戦闘中だろ!?」
心配して損した。いや本当に。こいつもうダメかもしれない。
「なぁ蛍。私はもう結構働いたから、そろそろ抜けてもいいだろうか?」
「いいわけないだろ馬鹿が! ボスを! 倒して終わりだボケ!」
「む、口が悪いぞ蛍」
「お前がそうさせてるんだよ!」
そんな風に口を動かしながらも、俺たちは着実に敵にダメージを与えていく。
結局――ティティが一度ダメージを喰らうことはあったものの、このボスも完封勝利をすることができた。
ちなみに俺は、ティティとギャーギャー言い合ったあとに将来のお嫁さんから弓矢が飛来してダメージを負いました。ヤックルによると、その際に結構投げ銭が飛んだそうな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
第一エリアのボスを全て倒したことで、街の中心にある転移陣から第二層にいけるようになった。
一万人の参加者のうち、千人が同じ
いままで通知が来ていなかったから、俺たちが一番ということで間違いないだろう。
ツインヘッドドラゴンを倒して得た報酬を使い、俺たちはワールド内でも最速でギルドを設立した。
ティティから初撃破報酬の取り分と同額である『ギルド設立金の二十五万円』を徴収しようとしたのだけど、ガチ泣きしてワンワンと往来で泣き始めてしまったので、仕方なく五万円だけ渡した。そして、その日のうちに溶かしていた。
ちなみに、俺たちの次に稼いでいるであろうシェリアやトルテたちのパーティだが、一部のメンバーが投げ銭で大金を使っているらしく、俺たちよりも数日遅れてギルドを結成していた。投げ銭をしていなければ俺たちよりももっと先にできていただろうに。
「……なぁ千春、俺はどこで間違えたんだと思う?」
ダイニングチェアに腰かけ、肘を突き、頭を抱えながら正面でお茶を飲んでいる千春に問う。
千春は「ヤックルを拾ったあたりじゃない?」と肩を竦めながら答えた。うん、おれも歯車が狂い出したのはその辺りだと思う。
時が経ち、階層を進んでなお俺たちはトップの座をキープしている。
しかし、なぜ大金を稼いでいるのにも関わらず、こうも金欠なのか。ナンバーツーであるシェリアたちも俺たちと同じく火の車だが。
「え!? いま私の名を呼びましたか!? ちょっとアニメ見ててよく聞こえなかったんですけど!?」
千春の声に反応して、ソファでクッキーを貪りながらくつろいでいたヤックルがこちらに目を向けた。
「黙れロリ痴女。お前が今朝、寝ぼけて俺にアホ毛を擦りつけてきたこと忘れたとは言わせないぞ?」
「寝惚けてんだから仕方ないじゃないですか!?」
私は悪くありませーんとでも言いたげに、ヤックルは明後日の方向に視線をツンと逸らす。寝ぼけて他の部屋に来るなアホ。そして俺に性感帯をこすりつけるな。
「あら、その話は初耳ね」
そう言った千春がゆらりと立ち上がり、ソファでくつろいでいるヤックルのもとへ向かう。ロリ痴女はその場で即座に正座した。学習してるなぁ。
「い、いやこれは違うんです千春さん! アホゲスト族には発情期みたいなものがありまして、一定の周期でアホ毛に刺激が与えられないとウズウズしちゃうんです」
アホゲスト族全員やばいな。トルテはいったいどうしてるんだろうか。陰でシェリアにでも弄ってもらっているのかもしれない。
言い訳っぽいものを早口で言うヤックルに対し、千春は乱暴にアホ毛を掴む。
「じゃあこれからは私が弄ってあげるわ―そんなことより、あなた今月いくら娯楽に浪費したのかわかっているかしら?」
唐突に話題が変わった。というか、俺たちにしてみればこれが本題なのだけど。
「あ、や、十万円、ぐらい、ですかね? んぅっ」
時折なまめかしい声を発しながら、ヤックルが答える。十万円なわけないだろボケ。
「あなた、今月は二百万円以上、クッキー、アニメ、漫画で使っているわよ」
「で、でも、ティティさんだって毎月五百万円ぐらい使ってますよ!?」
「あの中毒者は配信での収入があるでしょう。といっても、それでも百万円は使っているのだけど」
マイナス分の収入源が他の参加者たちが汗水流して稼いだ金であることを思うと、涙がとまらない。こんなメシウマ配信者のためにお金をほいほい投げるなよ……。ちなみに、ヤックルの収入が多いのも、一部の熱狂的なファンによるものだったりする。
まぁしかし、ギャンブルが弱すぎるティティが配信をしているおかげで、実は俺たちのワールドが救われていたりするのだ。
実際、他のワールドでは生活破綻者が続出していたり、全体の五割がギャンブルに嵌まってしまったワールドもあるという話をメイテンちゃんから聞いた。地球の神様の目論見通りだったりするのだろうか。
「あいつ、元の世界にパチンコ店なんて作ったら終わりだろ……配信の収入もないんだし」
「私は無限に食べられるお菓子の家を作る予定なので、何も心配ないですね!」
「心配しかないんだが」
痴女の「んぁあっ」という声を耳に入れながら、考える。
優勝した時の願いねぇ……一位を狙えそうな感じだし、俺もそろそろ真面目に検討してもいいかもしれないな。
~~作者あとがき~~
ここまで読んでいただいた読者様、ありがとうございます。
そして大変申し訳ございません。
こちらの話を読んでお気づきかもしれませんが、この物語を締める方向で動きます。
この物語は当初のペースで進むと7~80万字相当になる感じなのですが、そこまで続けることがメンタル的にも作者の生活的にも困難です。
おそらく次話かその次話で締めくくる形になると思います。
楽しんでいただいていた読者の皆様には本当に申し訳ないのですが、
なにとぞご理解をお願いいたします。
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