第48話 わいわいボス戦
「陰謀です! きっとこれは神様たちが私を笑いものにしようと画策した結果です! だってまだ一歩目ですよ!? チキンレースを舐めてるんですか!?」
ギャーギャーと文句を垂れ流しているヤックルを、ツインヘッドドラゴンが睨む。
おーおー、完全にロックオンされてら。騒いだからか、ただ単に一番近い位置にいるからなのかは知らないけど。
「ほれ行った行った。都合よくお前にヘイトが向いているようだし、いつもの回避を頼む」
「え!? じゃあもしかして罰ゲームは無効ですか!?」
「ならねぇよ」
「そんなぁ」
泣きそうな声を発したヤックルは、それでもやらなければいけないことはしっかりわかっているようで、素早く動き敵に接近。振り回される尾や口から吐き出す火炎を避け始めた。
「うわぁ……ありゃ熱そう。現実だったら服は燃えるは喉は焼けるはで大変そうだ」
「いちおうここも現実といえば現実なのだけどね」
絶賛暴れ回っているボスを見ながら漏らした言葉に、千春が反応する。
現実と非現実のはざまって感じだよな、この世界。
「なるほど……もう片方の頭は冷気を吐くのか」
ヤックルに回避を任せることに関しての利点――初撃を加えられることの他に、もう一つ大きな利点があった。相手の行動パターンや攻撃の種類を、彼女が時間を稼いでくれている間に色々と見ることができるのだ。
彼女の体力にも限界があるからあまり長時間はできないけれど、あるのとないのではこちらの戦闘のやりやすさが段違いだ。ボス戦だと特に。
「ティティはどうだ? 問題なくいけそうか?」
「ダメージが通れば問題ないだろう――ちなみに、再度確認するがこの魔物を倒せば二十五万円の報酬が手に入るのだな?」
ギラギラと目を輝かせて、興奮した様子でティティが言う。漫画だったら間違いなく目がドルの形になってそうな雰囲気だ。
「ちゃんと働いたらな」
「そうかそうか! ではきちんと働くとしよう! 千春、敵の弱点はどこだ?」
「尾の根元ね。上側の」
「承知した」
ティティは楽し気にそう言うと、低い姿勢でボスへと疾駆する。彼女はステータスを平均的に上げているので、攻撃以外のステータスは俺とほぼ同等だ。
ボスの視線をかいくぐり、素早く背後へ回る。そして、千春からもたらされた情報通り――尾の根元を二本のナイフで突き刺した。赤いエフェクトが、攻撃した場所に発生している――ばっちりクリティカルがでたようだ。
『グギャァアアアアッ』
怒りか痛みか、どちらともとれないような叫びをあげたボスは、すぐさま後ろを振り返る――が、背後にティティの姿はない。
彼女は敵が振り返る直前にその場で跳びあがり、冷気を吐く敵の頭の上に。炎を吐いたほうの頭は、反復横跳びをしているヤックルに睨みをきかせている。なんだか、ただ鬱陶しいだけのヤックルに労力を割いているドラゴンが哀れに見えた。
「じゃあ俺も行くとしよう――千春もサポートよろしく頼む」
「任せなさい」
千春の返事と同時、俺も敵に向かって駆け出していく。
ティティが冷気を吐く頭にナイフを突き刺したところで、俺も攻撃を開始。炎を吐く頭を支える長い首を剣で切りつけた。すると、ヤックルに気を取られていた敵がこちらに目を向ける。
「なんだかこいつ戦いづらそうだな……一つの身体に二つの頭って……」
冷気に触れた岩盤は凍ってしまっているし、炎は見るからに危険だとわかるのだけど、思考する場所が二つもあったら大変だろうなぁ。
おっといかん――気が散っているな……真面目にやろう。
「――焼き付けろ」
いつもの言葉を呟くと、視界が広がるような感じがした。そして身体に淡い光がともる。
さてさて、配信もしていることだし、誰も怪我なく完封勝利を目指したいところだ。
「あっつい! 蛍さん! あっついです! 私の速さなら炎を潜り抜けられると思ったんですけど、あっついです! ダメージ受けちゃいましたっ!」
なにやってんだこいつ。
ヤックル推し:ちょっときちんとヤックルが怪我しないように立ち回りなさいよ! 不測の事態をきちんと読み切りなさい!
吸血鬼の始祖:うぐぐ……なかなかやるじゃないあんたたち
犬畜生:あぁ、あなたはどこまで美しくなるおつもりですか【10000円】
ヤックルの下僕:あはは、ヤックルさんサボってスマホ見てますよ。ウケますね【1000円】
ヤックル推し:は? あんた〇されたいのかしら? ヤックルは何をしても許されるのよ【1000円】
ヤックルの下僕:ごめんなさい【2000円】
吸血鬼の始祖:あんたたち……そのお金が全部こいつらに取られているってわかってるのかしら?
ヤックル推し:あとでリビングに来なさい【1000円】
ヤックルの下僕:ちょっと用事を思い出したので行けません【1000円】
ヤックル推し:来なさい【1000円】
吸血鬼の始祖:あーもう! 私のコメント見なさいよあんたたち!【1000円】
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