第18話 ドンマイ!独身もきっと楽しいさ!



 ヤックルと訓練施設をあとにして、アパートに向かって二人でトボトボと歩く。

 何も成果は得られませんでした。強いていえば、少しヤックルと打ち解けられたくらいだろうか。


 あれ? これって打ち解けたらギルドに加入する流れだよね? 成果と呼ぶのは間違ってやしないか?


「お金はきちんと返しますので……」


「どうやって稼ぐの?」


 バイトでもして稼ぐつもりなのだろうか。疑問に思ったので聞いてみると、なせか彼女は頬を赤らめた。


「責任を持って――か、身体でお支払いします!」


「その幼児体型で?」


 冗談はアホ毛だけにしてくれよ。


「あ、アホ毛も――ちょ、ちょっとくらいなら触っていいですよ! あうぅ……乙女になんてことを言わせるんですか蛍さんは! もうっ!」


「あぁうん。もうそれでいいや」


 訓練施設に支払った千円は別に返してもらわなくてもいいやと思っていたので、彼女が罪悪感を覚えぬよう、俺は隣を歩くヤックルのアホ毛をつまんだ。


 ふさふさした柔らかい物を想像していたのだが、触ったアホ毛にはネズミの尻尾のように芯があった。コリコリとした触り心地である。


「……ん、んぁっ、ほ、蛍さん――こんな人の目のある場所でっ」


「急に変な声だすなよ……性感帯じゃあるまいし」


 街を歩いていた他の参加者が、こちらを奇妙な物を見る目でチラチラとみていた。

 変なのは俺じゃなくてこっちのちびっこですよみなさん。


「アホ毛はアホゲスト族の、その……そういう場所ですよ」


 コリコリと指でアホ毛をいじっていると、顔を真っ赤にしたヤックルからとんでもない情報が飛び出してきた。マジ? このアホ毛、神経通ってるの?


「もうお嫁に行けませんっ」


「そっか、ドンマイ! 独身もきっと楽しいさ」


 俺は千春しか興味ないのであしからず。

 ヤックルが素敵な独身ライフを送れることをお祈りしておきます。


「ここは責任を感じてギルドに入れてくれる流れでしょう!? 人のアホ毛をいやらしい手つきで欲望の赴くままにこねくり回しておいて、それはないでしょう!?」


「ギルドは関係ないよな?」


「乙女のアホ毛を触っておいて酷いです! この薄情者!」


「お前が触れって言ったんだろ!?」


 掲示板に『地球人が小さな女の子の性感帯を触っていた件』というスレッドが立っていたことを、この時の俺は知る由もなかった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「よう蛍! ちょうどお前を探してたんだよ!」


 ヤックルとひと悶着があった直後、自転車に乗るダックスと遭遇した。当たり前のようにママチャリに乗って登場したけど、異世界人が自転車に乗っている姿はなかなかに違和感があるな。籠にはサッカーボールが入ってるし、マジでお前は何しにこの世界に来たんだ。


 というか俺を探してたって、いったい何の用事だろうか?


「ギルドの勧誘ならお断りだぞ。俺たちは自分で設立する予定だからな」


「違う違う、この間の配信の取り分を渡そうと思ってな」


 ジト目を向ける俺に対し、ダックスは苦笑しながら答える。

 配信の取り分……? あぁ、ボス戦の時に配信していた動画の収益のことか。出演料がもらえるとはありがたい。


「蛍たちのおかげでお金が飛びまくったからな。厳密に計算は難しいから、今回は半々ということで許してくれ」


 そう言って、ダックスはウィンドウを操作し、俺の目の前にはダックスからの譲渡画面が映し出される。金額は五万円だった


「……こんなに貰っていいのか?」


「おう! 視聴数のお金と投げ銭で十万近くもらったからな。これからも動画で収益は入るだろうから、蛍の取り分はこんぐらいだ」


 今の俺たちにとって五万円ははかなり大きい。千円浪費したあとだからなおさらありがたかった。


「そっちの嬢ちゃんは、もしかしてアホゲスト族の子か?」


「そうですよ」


 みょんみょんとアホ毛を揺らしながら、ヤックルがダックスの前に出てくる。

 見た目がとても特徴的だからか、ダックスも彼女のことを軽く知っているらしい。


「蛍、アホゲスト族のアホ毛は気軽に触ったらダメだぞ? 俺はつい触ってしまって半殺しにされたからな」


 怖いよ。アホ毛触って半殺しってどこの世界だよ……ヤックルの世界か。


「ってことは、ダックスはもう一人のアホゲスト族に会ったことがあるんだな」


 ヤックルから聞いた話では、別のところにスカウトされたということだったはず。

 スカウトされるぐらいなのだから、俺たちのように戦力期待値0ではなく、戦績は高評価だったのだろう。しおりには乗っているだろうから、あとで確認してみようか。


「おう! ――と、噂をすればだな」


 ニヤリと笑い、ダックスが顎で俺たちの後ろを示す。

 背後に人の気配を感じてはいたけど、まさか――、


「あら、ヤックルじゃない。相変わらず小さいわね」


 振り向いてみると、そこにはヤックルと同じようにみょんみょんと黄緑のアホ毛を揺らす人がいた。

 高い位置で結ったツインテールで、目は釣り上がっており、腰に手を当てているところからも居丈高な雰囲気が伝わってくる。


 身長は、ヤックルのことを言えないような百センチ前後だったが。



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