第19話 アホゲスト族のトルテ
俺たちの前に現れた五歳児に見える女の子(十八歳らしい)は、トルテと名乗った。
トルテはどうやら買い物に行った帰りらしく、ビニール袋を手に提げている。中身は袋ラーメンのようだ。
「ふふっ、どうやらようやくあなたもギルドを見つけたようね。地球人と一緒だなんてお似合いじゃない」
クスクスと笑いながら、トルテが言う。
「魔物を倒せないあなたがどうやって活躍するつもりなのか、楽しみにしているわね」
舐められている――直観的にそう思った。
おそらく、彼女は俺たちのボス戦を見ておらず、前情報である『戦力期待値0』ということしか知らないのだろう。
ボス戦後のみんなの変わりようから考えてみても、彼女は俺たちが戦える人間だとまだ知らないはずだ。
だから、同じく『戦力期待値0』のヤックルとお似合いだと……あぁそうですか。
「後からヤックルが欲しいって言っても、絶対に渡さないからな」
売り言葉に買い言葉――というわけでもないけれど、イライラしてしまった俺はトルテに向かってそう言い放ち、ヤックルの手をひいてその場を後にする。
後ろからダックスの「おいっ!」という声が聞こえてきたけど、俺は早歩きでアパートを目指して歩き始めた。
「ほ、蛍さん!? もうちょっとスピードを落としてください!」
歩幅のことを考慮していなかったので、ヤックルはずっと小走りだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ムカつくわね――いいわ、あなたウチのギルドに入りなさい」
アパートに帰ってきて事情を話すと、千春は即答でヤックルのギルド入りを了承してくれた。千春のこういうところ、やっぱり好き。
「でも、やっぱり悪いですよ。今日一日蛍さんと一緒に過ごして、とても親身に私のことを気遣ってくれましたし、足手まといにはなりたくないという気持ちが強くなってきました」
どこで覚えたのか、ヤックルは正座をした状態で自らの膝を見つめる。
お菓子の家への欲望はどこに行ってしまったのか、彼女のアホ毛はしょんぼりと横たわってしまっていた。
「そこはまぁ……時間を掛けて考えていこうぜ。そもそもヤックルだって、世界の代表として選ばれているんだから、何か得意な分野とかあるんじゃないか?」
彼女を見ていると忘れそうになるが、いまこの世界に集まっているのは各世界の代表者たちなのだ。
ヤックルのいた世界が何人規模の世界なのかは知らないけど、少なくともトップ2に選ばれる才能は持っているはずである。
「走るのが得意ですね!」
「スキルは?」
「足がちょっと速くなります!」
「そっか……」
「なんでガッカリしてるんですか! 私はアホゲスト族で一番の俊足ですよ!」
「そーなんだすごいねー」
「棒読みはやめてぇえええええ!」
だって俺、公園で彼女が走っている姿をもう見ているんだもの。あれがたとえ二倍速になったところで――といったレベルだった。
たしかにこの五歳児の身長であることを考慮すれば速いのだろうけど、俺たちのなかに混じればそれも意味はない。
「いちおう、私のほうでも探しておいてみたわよ。これを見て」
そう言って、千春がスマホを手に持ち俺の横に座る。肩が触れ合う距離――これはもうカップルと言っても過言ではありませんなぁ!
しかしいまは真面目な話をしているので気持ちを抑える。
「どれどれ――【急募:魔物を倒せない人がこの世界で役に立つ方法】? 千春がこれ作ってくれたのか?」
まさにヤックルのためにあるようなスレッドが掲示板に立っていた。コメントは賑わっていないようだが、数件の書き込みはある模様。
俺がヤックルと訓練場に行っている間、千春はこんなことをしてくれていたのか。
「私は知らないわよ。ただ掲示板を見ていたら見つけただけ」
「ツンデレかな?」
「死にたいの?」
質問を質問で返すのは良くないと思います! そしてごめんなさい!
まぁこれ以上ツッコんでも得られるものは対してないと思うので、千春に「どんなことが書いてあったんだ?」と聞いてみた。
すると、千春は自慢げにふふんと鼻を鳴らしたのち、ヤックルに目を向ける。
「あなたは、魔物を倒さなくてもいいわ」
「っ!? 本当ですか!?」
千春の言葉に、ヤックルは喜びの声をあげる。その際に身体もぴょんとはねたのだが、どうやら正座のせいで足がしびれているらしく、ひとり苦悶の表情を浮かべていた。
しかし、魔物を倒さなくてもいい方法か。
彼女のスキルが援護系のものだったならば、まだやりようはあったのだろうけど……いったい千春は何を提案するつもりなのだろう?
「いい? ヤックル。あなたの役割は――」
~あとがき~
次は掲示板なので本日もう一話すぐにあげます!
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