Jasmine

 庭に植えた花が枯れた。


 もうすぐ冬が来るという季節で、寒くなる前に花を咲かせようと急いだ結果だ。


 枯れた花を見て、あの人は言っていた。


「残念だけど、これは来年も咲くよ」


 そう笑う声はまだ胸に残ったまま。


――でも、今年はもう咲かないでしょう?


 その言葉を聞いたあの人が、不思議そうな顔をしていたのを覚えている。


 彼が病床についたのはそのまたすぐだった。私たちは彼が亡くなる最後まで支え合い、手を握り、キスをして、そして散った。


 亡くなった後に残ったのは、彼からの荒い文字の手紙。私に向けた愛や謝礼を綴ったものだった。


 その手紙を開くたび、彼に見つめられているような、監視されているような気分になって、嬉しさと寂しさが同時に押し寄せた。


『一緒に街に出た時に、路地裏に入って、走ってそこを抜けたことがあったよね。あれは楽しかった。君の手を引いて走っているだけで幸せになれたんだ。

 でも、僕はもう君の手を引けなくなった。ごめんね。君はいつも僕を支えてくれたね。君はすごいよ。本当に心から感謝しているんだよ』


 彼の手紙にはそんなことが書かれていた。私はただ彼について行っただけなのに、彼はそれを恩義に感じて、私の思い出の一つとしてずっと覚えていてくれていたらしい。


 街に出かけるたびに、彼に連れられ路地裏を走ったことを思い出す。お酒にやられて年甲斐もなくはしゃいだ私を、彼はどんどん引っ張っていく。


「……私だって、思い出せるし」



・――――――・



 ドライフラワーを飾るようになってから、眠る時も彼の顔が浮かぶようになってしまった。


 街に出かけるときも、友人と食事に行く時も、家でくつろいでいる時でさえ、もういない彼の姿を探してしまうようになったのだ。


 だから、眠る前には彼に話しかけてみることにした。そうすれば、心の何かが埋まっていくような気がして。


 街が揺れて、声が聞こえる。あの人の、あなたの。私の耳をくすぐる、優しい声が――――。

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