かすかなあかり - Novel Style -

柏葉和海(カシワバワウ)

Youth in the train

 線路沿いの河川敷に腰を下ろして、橋の上を走る電車を眺めるのが僕は好きだ。


 春の日差しが足元を揺らしていたその日も、そうしていた。


 鉄橋を渡る電車の音を聞きながら、ぼんやりと川の流れを見つめていた。昨日は同じ時間同じ場所で隣にいた、あの子のことを思いながら。


「どうしようかなあ」


 このままいけばきっと、あの子とお付き合いをすることもできると思う。しかしどうだろう。


 僕は一時の感情に振り回されて、本当にあの子を選んでしまっていいものか。


 僕はただ迷っているんだ。この気持ちが本物なのか、それとも、ただ「付き合う」という行為に憧れているだけなんじゃないのかって。


「はぁ……」


 ため息をつく。僕たち若者はいつもこうやって恋をする。誰かを愛したり愛されたりして大人になる。


 そんなことくらいわかっていたはずなのに、いざ自分がそうなると不安で仕方がない。


 電車がまた、大きな音を立てながら橋の上を走っていく。

 その中にはたくさんの人々がいて、中には僕と同じ年代の人たちもいる。


 目を細めて見てみると、高校生のカップルが窓にもたれて寄り添いながら立っている姿が見える。


 彼らは果たして幸せだろうか?

 きっとそうだろうな。でももし僕があの子に告白をして、うまくいったとして、それが一生続くとは限らない。若者の恋愛は美しいけれど、いつ別れるかわからない。


 ハイリスクハイリターンだ。そんな大きな賭けに、僕は出られるものか。


 そうだ、あの窓にもたれる二人だって見た目は美しく見えるかもしれないけれど、いつかは方向性の違いや行き違いを感じるはずなんだ。それで二人は別れてしまうかもしれないじゃないか。


 それなら今のままの関係でいる方がずっと安全だ。仲のいい友達。それでいいんじゃないかな。


 気づけば春の夕暮れが河川敷を染め上げていた。僕は立ち上がり、土手の方へと歩き出す。アスファルトには西日が照らされて、僕の影法師がくっきりと浮かび上がっている。


 僕は自分の影を踏みつけながら歩く。そして立ち止まり、もう一度川を眺めた。川の水面はオレンジ色に染まり、ゆっくりと流れていく。


「きれいだな」

「そうだね」


 背後から声をかけられる。そこにはあの子がいた。爽やかな笑顔にポニーテールがよく似合う彼女を見て、思わず顔がほころぶ。


「どうしたの?」


 彼女は不思議そうに首を傾げる。


「なんでもないよ」


 僕は静かに笑った。彼女がそこにいることは、嬉しくないようで嬉しかった。それだけで心が満たされるような気がする。考えではそれを跳ね除けようと思っても、どうしても心だけは正直だ。


 彼女の横に並ぶように歩いていく。彼女はどうやら学校から僕を追いかけてきたらしい。――今日は一人で帰る気分だったんだけどな。


「ね、一人で何考えてたの?」

「え? まあね」

「えーなになに? 教えてよ」


 アスファルトに僕らの話し声が響いていく。僕らは揺れる。揺れる。これからもきっと、揺れていく。揺らぎの中で何をどう選ぶかは、僕たちの手にかかっている。


 どの選択も間違いじゃないけど、全てがためになるわけじゃない。

 きっとね。

 そう心に刻み込みながら、僕は歩いた――。

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