第五話:また森の中に入ることになったのですが......

......ここは魔王城。

魔界の奥底に存在していた城であったが、今は人類を滅ぼすべく地上に顕現した魔の領域。

魔王城から放たれる瘴気により周辺の木々は殆どが枯れ果て、徘徊する動物の全体は魔物で埋め尽くされており、

本来居たであろう動物たちは皆食われたか逃げたかの二つである。

これら瘴気や魔物たちはある意味では城を守る役割を果たしており、過去に攻め入った人間たちを幾度も排除している。

そんな魔の領域とである魔王城その中でも重要な場所、玉座の間では四名の人型の魔族それぞれが集まっていた......。


「緊急会合と聞いて来てみれば・・・どうやら一人足りぬようだが?」


全身真っ赤な肌色をしていて、それでいて筋肉質であるが整った肉体を持つ魔族が辺りを見回しながら言う。


「魔将軍が一人、ホガイルだな。確か王都近辺への進軍を予定していたっけか?」


人間と同様に肌色をしているが、その頭には黒く角が生えており、

片方は半端に折れていて、もう片方の角は血管のように赤い線が走っており光っていた。


「進軍と言っても一人だけでしょ~? あいつ筋肉バカ過ぎて配下すら持ってないバカだから呼び出し忘れてるんじゃな~い?」


まるでゴブリンのように緑色の肌をしていて派手な服を着ている魔族はチャラついた態度でその場に居ないホガイルを茶化していた。


「はぁ・・・正直どうでもいい・・・さっさと話聞いて研究所に篭りたい・・・」


眼鏡型の拡大鏡を額に付けている自分の背丈に若干合わない白衣を着た藍色の肌をした魔族は、

騒ぐ三人の傍で死んだ目でため息を付きながらボソボソと愚痴をこぼしていた。


「皆さん、静粛に」


騒いでる三人の魔族を止めるように一人の人型魔族が玉座の間に入ってきた。

とても美しい顔つきと女性としては十分すぎるぐらいに豊満な胸と引き締まった腹部......

紫と青が混ったような肌している点を除けば、男ならば誰もが振り向くほどの美貌を持つ女性と変わらない見た目をしていた。


「カビエル殿か。魔王様は間もなく到着されるのか?」

「えぇ、間もなくお見えになります。それより約一名見られませんが?」

「は~い。ホガイルの筋肉バカなら欠席で~す。今頃王都近くで暴れてるんじゃな~い?」

「ホガイル・・・そうですか、彼なのですね・・・」

「ん?」


カビエルの気になる言葉に赤い肌の魔族は疑問に感じていると、閉じていた扉が静かに開く。

それと共にゾクッと悪寒が走り、カビエルを除いた魔族たち四人は敷かれている絨毯の端に寄り跪く。

開ききった扉から一人の禍々しい甲冑に身を包んだ魔族が一人ゆっくり歩いてくる。

その魔族にカビエルは歩いて横に付くように傍に寄る。


「魔王様」

「うむ・・・全員揃っているか?」

「ホガイルを除き、魔将軍全員揃っております」

「ふむ・・・ご苦労」


甲冑の音を立てながら魔王はゆっくりと端に寄っている魔将軍たちの前を通り過ぎ、静かに玉座に座る。


(魔王様、相変わらず恐ろしくも魔力溢れる凛々しいお姿、感服だ・・・!)

(ふむ・・・魔王様のあの態度、もしやホガイルの身に何かあったのか・・・?)

(はぁ~ダル・・・魔王様の肉体と魔力の性質だとか知りたいとは一時期思ったけど理解出来ない要素多すぎて

止めたんだよねぇ~・・・てか、異質すぎるでしょ魔王様・・・)

(ヤッバぁ~・・・魔王様なんか不機嫌っぽいけどなんかあったの~・・・?)


ゾクゾクッと震える身を抑えながら跪いている四人はそれぞれ思うことを考えている中、魔王はそんな彼らを見ながらゆっくりと口を開いた。


「今日お前たちを集めたのは魔将軍が一人、ホガイルの死亡したことについてだ」

「―――ッ!?」


その言葉にカビエルを含めた五人は衝撃を受けた。

先ほどまで脳筋だとなんだと言われているホガイルではあるが、

実力としては魔将軍と名乗るだけの力量を持つホガイルが死んだというバッドニュースは彼らを驚かせるに値するほどの大ニュースであった。

あまりにも衝撃的なニュースだが、さすがに魔王の手前......驚きで声を上げるわけにはいかなかった。


「カビエルよ。ホガイルは今回、遠征を行くということになっていることで間違いないな?」

「はい。本日、王都近辺まで近づき、近隣の村を襲撃してくると言っておりました」

(なんだ・・・知ってたんじゃないか)

(ではホガイル殿はそこで討ち死にを・・・?)

「ふむ・・・魔法による透視にて、その動向を追っていたが・・・確かに村の襲撃は出来ていたようだ、

王都近辺にあるギルドにも通じている村、前々より厄介なところではあったが、見事奴はそこを攻撃し滅ぼすことに成功した・・・そこまでは良い、上出来だ」


カイコも通過したあの村......あの村は王都近辺の中でもギルドがもっとも利用する場所であり、

冒険者たちが通ることもそうだが、鍛冶屋で武器を鍛え、宿で宿泊をして英気を養う冒険者たちに取っては無くてはならない場所であった。

だが、魔王軍からしてみれば敵の拠点とも言える忌々しい場所で、そこをホガイルが潰してくれたことに魔王は上々と喜んでいた。

しかし......。


「だがそこで予期せぬ襲撃者による攻撃を受け、あっという間に殺された」

「あっという間に・・・ですか・・・?」

「あぁ、ずっと見ていたが何とも惨い殺し方をする・・・一瞬同胞の仕業かと思うほどであった」


魔王がそこまで言うほどの人物とは一体どんな奴なのか?

魔将軍たちの関心はホガイルが討たれたことよりもその人物へと向けられていた。


「それで魔王様、その襲撃者の正体とは・・・? まさか英雄なのですか?」

「いや、もっと厄介な者だ。―――邪神だ」


邪神。

その言葉一つだけで魔将軍たちは今まで伏せていた口が一気に開いてしまった。


「邪神!?」

「マジで!? 邪神がウチらに手を出したと!?」

「ありえない・・・と言い切れぬが、

まさか今まで人間と魔族双方傷つける程度だけで済ませていた彼らがまさか我ら魔将軍の一人を討ち取るとは・・・」

「ふ・・・ふひひ・・・邪神! 僕が一番研究したいと恋焦がれてた実験材料・・・! どこ? 今どこに居るの?」


―――静まれ。


魔王の一言で魔将軍たちはピタリと言葉を止め、再び首を下げる。

その額には冷や汗が噴き出しており、体が小さく震えていた。

やってしまった。

全員は青ざめた顔のまま魔王の話を淡々と聞くのであった。

カビエルを除いて......。


「魔族たちからの情報では邪神は生物とは少し違う見た目をしていると聞きますが、

一体どのような姿をしていたのでしょうか?」

「そこが問題なのだカビエルよ」

「問題とは?」

「カビエルよ、邪神の中に人間の存在は確認出来ているか?」


魔王の説明にイマイチ意図が読めなかったがとりあえず答ようとした。

しかし、これまでの目撃情報などを思い出してもどれも人間の存在を確認されたケースは一つも無かった。

邪神の中でも人型に近いのは死神だけだった。


「―――いえ、私が魔族から集めた情報でも人型の邪神は該当が無く、あったとしても死神しかありえません」

「で、あるか・・・」

「魔王様、まさかホガイルを討伐したのは・・・」

「そのまさかだ。その人間は魔獣ブラックウルフとミミック、そして死神を連れており、従えていた」

「テイマー?」

「その可能性も考えた。だが、死神並びに邪神は我ら魔族だけではなく人間に対しても敵対をしている意図が読めぬ者たち・・・

死神が人間に対して手を貸す可能性は極めて無に近い」

「何よりブラックウルフは気高き孤高の魔獣。魔族にも人にも牙を向く種族ではありますが・・・」

「そこだ。双方ともにも牙を向く邪神とブラックウルフを従わせ、

我が魔王軍の精鋭である魔将軍の一人を面妖な戦い方で倒したあの者・・・」

「同行を探りますか?」

「そうしたかったのだが、ホガイルが討たれた辺りで透視が途切れてな・・・その後が解らぬ」

「では追跡が難しいと?」

「むぅ・・・魔将軍よ、これより命令を下す」

「はっ!!!」

「お前たちの意識に今より私が見た邪神の一派と思われる人間の姿を映す、

それを頼りにその人間らしき者と遭遇した場合、速やかにその人間から情報を聞き出し、その後は始末しろ・・・良いな?」

「魔王様の名の下に必ずや成し遂げて見せます!」

「うむ。では人間の姿を映し出す。いつも通り進軍を続けつつ、この人間を見つけ次第先ほど申した通りにせよ!」


魔王が手をかざすと黒いもやのようなものが魔将軍たちの頭にへと流れていき、

完全に流れきると共に魔将軍たちは立ち上がり、玉座の間から立ち去っていく。

一通りの事を終えたせいか、魔王は背もたれに背を沈め、軽いため息を吐いた。


「お疲れ様です魔王様」

「あぁ・・・しかし、あの者は一体何者なのか・・・あの奇妙な武器、そして能力・・・必ず我ら魔族の脅威になるであろう」


そう言って甲冑の中に光る魔王の黒い瞳はもう既に誰も居なくなっている絨毯だけを見つめていた。



――――――・・・



「つまり、君たち二人はこの世界の神様であり本来この世界を管理してたって訳だな?」


先ほどの戦いと出会いをした後、バギーを進めて暫く進めたところで状況を整理する為に一度停車した。

僕の記憶を読み取ると共に他にも知識なども読み取ってこうしてちゃんとした会話が出来るゴツゴツの鉱石の見た目をしている彼から色々と聞けた。

この世界の事、種族や文化などに詳しい彼らからは有力な情報が得られた。

何度も異世界を渡りその度に知識などは蓄えれた僕としては理解の範囲に入る知識ばかりだった。


「観測者と言った方が適格かもしれないな。」

「ふーむ・・・しかし妙なのはこの世界の人間、そして魔族っていうもう一つの存在だっけか?

それらには君たちの声が届いてないと・・・」

「ああ。この世界を構築された当初からその様にプログラミングされているわけだ。」

「そのプログラムを組んだ神様は?」

「もう居ない。この世界と我らを構築すると共に消滅し、現在は我らが管理する役目を任されている。」

「確かに一つの世界を産み出すには莫大なエネルギーとそれに伴う爆発・・・ビッグバンが伴うが、

それだけ知能と力があるのなら消滅はしないと思うが・・・」

「我らもそれは考えた。しかし、現状創造主が何らかの出来事によるものか意図的なものかは我らにもわからなかった・・・。」


妙な話だ。

そもそもこの世界を作るとなればそれなりに理由があった筈だ。

ただの気まぐれ・・・にしては突拍子すぎるが、創造神の中にはそういった分類の奴も居るのか?

色んな神にあったことあるが倫理を外れたような神は居ない、

居たとしても人どころか他の神や世界にまで悪影響を及ぼす邪神の分類だ。


「まぁそこんところを今のところ深堀しても答えも出ないか・・・。それで、ずっと気になってたけど・・・」

「あぁ、同胞に関してか・・・」


そう。

停車してから説明を受ける際 「記憶を読み取らせてほしい。」 と、お願いしてきた丸い球体の彼・・・というか声的に彼女と言った方が良いのか?

彼女からそうお願いされて了承して記憶を読み取らせてあげたんだが・・・

何故かその後からずっと黙り込んだ状態のまま定位置の場所でふわふわと浮いていた。


「同胞よ。何かエラーでも―――」

「何故ですか・・・」

「え?」

「何故、彼の記憶がこのように悲劇的な最期しかないのですか・・・?」

「あ~・・・そこ・・・」


そこなんだ。

まぁこの記憶は僕の頭の中だけしか留めてなかったからねぇ・・・

そう、僕の中は死んだ記憶ばかり。

えげつない物から悲しい物、はたまたバカみたいな死に様や呆気ない物まで沢山。

まるで死にゲーの主人公のように死を繰り返している。

まぁ違う点を入れるなら死んだらその異世界ではそこまでで終わりで、元居た世界にデスポーンするって感じだけど・・・

あれ? よくよく考えてみたら丸い彼女はあんな風にショック受けてるのに何でゴツゴツの彼は平然としてるんだろ?

読み取った記憶は一緒のハズなのに・・・


「知識は流れ、理解は出来ました。しかし・・・しかし、この記憶は理解出来ません・・・

何故彼は何度も苦しみながら死ななければならないのですか? 何故、彼は―――」

「それ以上言ってはならない。」


彼のその一言で彼女の言葉はピタリと止まった。


「彼の記憶は彼の物、それを了承の上とはいえ読み取った我らに語るべきではない。」

「ですが―――」

「駄目だ。それは彼に対する侮辱に値する。それ以上述べてはならない。」

「・・・了解しました。申し訳ありません。」


彼女は僕の前にスゥー・・・と近寄ると共に謝罪をしてきた。


「いいよ。ただまぁ・・・彼の言う通りではあるな、

無礼とまでは捉えないけど僕の記憶に大して悲劇的に感じるのはこちらも苦しくなるからやめてほしい、それだけだ」

「了解しました。以後この様なことが無きように致します。」

「そうしてくれると助かる」


なんだろう。

会社でもあったな、確か新入社員くんがヘマこいて深々と頭下げてきてさっきみたいな台詞を大声で叫んでたっけ

正直、設計図にコーヒーこぼしたぐらいであそこまでギャーギャー言わなくてもそれぐらいすぐに書き直してあげるのに・・・

というかそうしたんだっけか、会社勤めが長い子らからは 「ですよねー」 みたいな顔で見られてたけど


「話を変えるんだけど、君らの名前って何かな? 何か個別の名前ぐらいはあるんでしょ?」

「それなら無い。」

「無いの!?」

「ありません。何せ創造主が私たちを創り上げた後に居なくなってしまったので・・・」

「あ~そうか・・・名づけの段階前から失踪したわけなのかぁ・・・」

「君の知識からも理解出来るが、名前とはその者の証となる重要な物。ならば君が我らに名を与えてくれ。」

「えっ? そんな突拍子なことで名付けていいの?」

「構わない。それから我らも君のことをどう呼べばいいのか教えてくれると助かる。」


う~ん・・・まるでゲームにおける名付けする場面のようだ。

しかし、社員からもちょいちょいツッコミを入れられるが、どうも僕のネーミングセンスは悪いとの事だ。

確かに自分が提示した商品の名称とかは全部ダメって言われてたしなぁ・・・

そんな自分に任させて良いのか段々不安になってきた・・・

えぇいままよ、もう後でとやかく言われても責任持たんぞ僕は!



―――――・・・



「えー・・・というわけで、改めてゴツゴツの君はガーネット、丸い君はオパールということで・・・その・・・よろしく・・・」

「なんでそんなに自信無さげなんだ?」

「気にしないでくれ、ちょっと自分のネーミングセンスが単純すぎると察しただけだ」

「カイコ。あなたが付けてくださった名前ですが、由来は―――」

「鉱石から取ったんだよ、君ら見た目が鉱石っぽい見た目でね。

ガーネットのは候補があんまり当たらなかったから色的に近いと思ってこの名前にしたんだ」

「頂いた知識より理解しました。オパール・・・確かに私の見た目に一致していますね。」

「あぁ。悪くない、名づけ元となっている石に恥じぬ輝きと力を見せよう。」


とりあえず名付けはこれで完了した。

ちなみにガーネットが言ってた僕の呼び名に関してはもう普通に凝ったものにせずにカイコで通した。

社長って方が呼び慣れてるけど、さすがに異世界で社長って名前で通すのはちょっとな・・・と思った。


「さて、最後にだけど黒フードくんのことに関してだ」

「御使いに関してか?」

「そうそれ、というかそもそも御使いって何? なんか他の奴らは死神がどうだの言ってたけど・・・」


黒フードくんという言葉だけで反応したのか、黒フードくんは待機していた荷台から降りてきて僕の傍に近寄ってきた。

そうそう今、君の話し始めてるからね? 当事者ちゃんと傍に居てくれると助かるよ。


「死神・・・このタイミングで切り出すのもどうかとは思うが、

何故かこの世界の人間と魔族たちは我らを“邪神”と呼称し、敵対視してくるようになったのか・・・分からないのだ。」

「分からないっていうと、やっぱりコミュニケーションが取れないせいなのか?」

「その可能性も視野に入れていたが、おかしいことにこの世界には我らの同胞とはまったく違う別の神の存在が確認されている」

「別の神? どっかで目を覚ました神というわけじゃなく?」

「まったく違う。それどころか、この世界の管理において我ら神々の補佐するように生み出された存在である御使いでさえ、

死神と呼ばれ問答無用で襲われている始末だ。」


なるほどねぇ・・・

まとめると、「元々居た神様と補佐である御使いが居たのに神様が休眠している間に別の神様に乗っ取られた」 ってワケか。

なんか自分が所有する空き家をホームレスか不良に占拠されたみたいな変な事案に見えてきた・・・


「あっ・・・そういえば聞いてなかったけど、君たちの上に当たる神様たちは何で眠ることになったの?」

「確かに説明出来ていなかったな。」

「その原因となっているのは、先ほど伝えました別の神に原因があるのです」

「随分ハッキリと言い切るってことは・・・その別の神がそう喋ったのか?」

「はい。その神、太陽鳥と自身をそう呼称した神は我らの前に現れ、言いました―――」


―――「この世界の古き神は延々の眠りに落ち、今この世界は我らが新世代の神が管理することになった」


「―――と・・・」

「完全に乗っ取り宣言じゃないか・・・」

「敵対勢力と認識して攻撃を加えようとしたのだが人間側の反撃に遭い、傷つけてはならないと止む無く撤退をしたわけだ。」

「都合の良い肉壁だな。ますます胡散臭い奴だわ」


その太陽鳥って奴、大方ゲスなやり方で手回ししてくるタイプだな絶対。


「それじゃあ、今後の方針としてはその神様の捕縛、およびそいつに尋問を行うってところかな」

「尋問か。そう大人しく喋る相手とは思えないが・・・」

「やってみないことには事態の進展が成らないからねぇ、兎に角情報が欲しい」

「進展が成らなかった場合はどうされるのですか?」

「その時は君らの同胞である神と御使いの捜索、そして上位神たちの目覚めに取り組むしかないでしょ」

「協力してくれるのか?」

「ここまで聞いて協力しないわけにもいかないし、何よりその上位神たちの力があればこの事態が大きく動く可能性だってある」

「了解した。」

「さて、肝心な太陽鳥とやらだけど、多分出てこい言って出てくる輩ではないだろうね」

「では、上位神の目覚めに取り掛かった方が良いだろう。太陽鳥としては上位神の目覚めは都合が悪いからな。」

「確かに、それで?ここから近くに当たるポイントはある?」

「ある。この道のりを進むと森に入る。そこにエルフの森より退避して眠りについた上位神が居る。」

「退避? 何か追われることでもあったのか?」

「わからない。だが、同胞の最後の連絡では何かに襲われていると・・・」

「そりゃまた・・・ならさっさと行くしかないな!」


バギーのエンジンを鳴らし、僕は道なりへと進み、森へと突き進んだ。



――――――・・・



「これは・・・」

「酷いですね・・・」


そういって馬に乗ってここまでやってきたラッツェル率いる太陽鳥騎士団とギルド長ゴウーダ率いる冒険者ギルドの精鋭達は、

崩壊している村を目の前にして青ざめた顔で唖然としていた。

無理もないだろう。

目の前にはかつて一度目にしたことがあった平和に暮らせていた村の無残な成れの果てが広がっているのだから・・・


「なんてことだ・・・これは・・・魔王軍の仕業か? それとも・・・」

「邪神の仕業か・・・ですかね・・・」

「おい、見ろあれ!」


冒険者の一人が指をさしている先にあったのは、ラッツェルやゴウーダが知っている者の変わり果てた姿だった。


「なっ・・・! あれはホガイルか!?」

「魔将軍ホガイル! 魔王軍でも軍隊を持たず個人で村を滅ぼせるほどの力を持った魔族が何故・・・?」


馬から降り、ホガイルの死体に近づいて生死を確認した。


「どうだ?」


ゴウーダの問に対し、ラッツェルは何も言わずただ首を横に振るだけだった。


「まぁこれだけ惨たらしいやり方されてりゃ死んでない方がおかしいわな」

「切り傷よりもなんだろう・・・? まるで砲弾に撃たれたかのような傷が目立つ・・・ゴウーダ殿、これらの傷に見覚えは?」

「ないな。というか、砲弾でもここまで精密に、それでいて確実に貫いている傷だ。

世の中広けれどもこんな傷を与える武器なんざ―――」


―――神の武器。


その言葉が脳裏に過ぎると共に、自分たちが追っているとある人物に大して深く繋がりを感じていた。


「邪神・・・」

「それ以外の可能性はありませんね・・・ゴウーダ殿、この村には連絡を?」

「まだ出来てねぇ・・・伝書鳩を飛ばしはしたが、

あくまで遠方の方のみだけで近場のここには後で連絡を入れるつもりだった・・・クソッ! まさかこうなっちまうだなんて・・・!」

「気に病むな・・・なんて気休めな言葉は無駄でしょうね。このような光景を見てしまっては・・・」


辺りを見渡してもとても生存している人なんているはずがない。

ラッツェルの頭の中にはその言葉が酷く突き刺さっていた......


「おい!こっちに生存者がいるぞ!」


突然、同伴していた面子の一人が大声でそう言うのを聞いて、ラッツェルとゴウーダは少し慌てるような面立ちで現場へと急ぐ。


「負傷が酷いがまだ息がある・・・! 至急回復魔法が使える奴らを集めるんだ!」

「過度に回復与えるな! ゆっくり自然回復に近い量を与えるんだ、表面のみで治癒が完了しちまう!」

「急げ! 息があっても虫の息だ! このままだと死んじまう!」


現場に着くと共に冒険者と騎士たちがそれぞれ協力しながら瀕死の重体で倒れている獣人の少女の治療に専念していた。

白い毛並みは泥と血で汚れ、着ていた服もズタボロになって所々乾いた血で汚れてしまっていた。

どうすればこんな傷だらけになるんだと皆が思う中で、現場に合流したラッツェルとゴウーダは一目で邪神の仕業であると理解した。

傷には切り傷の他に銃弾だと思われる傷跡、彼女が倒れていたであろう場所の付近は激しい戦闘の後と思われる痕跡が幾つも残っていた。


「ゴウーダ殿、一度ここは彼女の回復を待ちましょう。早く追い付きたい気持ちはあると思いますが・・・」

「・・・いや、ここで少し英知を養うとしよう。この嬢ちゃんもあるが、何よりここに暮らしてた奴らを丁重に葬ってやりてぇ」

「・・・僕も同じ気持ちです。・・・神よ、戦いの犠牲となった彼らに安らかな眠りがあらんことを」


焼け落ちた村の光景を見ながら二人は切ない顔でただただ祈りを捧げていた......。



――――――・・・



「ここが上位神が眠る森か」


バギーを走らせて数刻経ち、僕らは森の中へと入っていた。


「あぁ。どこに眠っているかは不明だが、

上位神に仕える神か御使いに聞くか記憶を読み取れば場所の特定に至るんだが・・・」

「ならまずは神と御使いのどちらかの捜索だな」

「ここから先は徒歩で向かうことを勧める。

道はあるが時折沼や地面から出ている木の根っこが邪魔をして乗り物で進むには不向きだ。」

「わかった。 みんな降りてくれ、バギーは別の物に作り替えるとしよう」


そろそろ日が暮れはじめてるのを確認して、念のためにとバギーを寝袋やテントなどに作り替えた。

テントはボタン一押しで開くタイプの物になっており、耐久性は低いが雨風しのげる辺りは便利な代物だ。

寝袋に関しては特に加える要素もないから至って普通の寝袋だ。

あとはコンロなどのキャンプ道具を何点か作っては見たけど・・・自分、こう見えてキャンプしたことろくにありませんから・・・

最初の頃はどうせ適当なところで死ぬんだしってことで野ざらしのところで寝ることがしょっちゅうで、

それがクセになったせいでろくにちゃんと寝れてない。


「一応だがカイコ。寝る時は我らが見張っているからちゃんと寝るんだぞ。」

「あっはい・・・」


ガーネットから凄く念押しみたいな言われ方をされた・・・

“ちゃんと”の部分がなんか変な圧を感じる。

というか、オパールからもなんか変な視線を感じる。

さすが僕の記憶を読み取っただけある、なんか変なところで過保護だ・・・


「とりあえず入ろう。 ガーネット、オパール、なんかアドバイスとかは?」

「先ほども言ったが沼や突き出た根っこなどが進路を塞いでいる事が多い。」

「それとモンスターも徘徊しています。

敵性のあるモンスターの他にもこちらから攻撃しなければ何もしてこない無害なモンスターも居るので注意を。」

「りょーかい! それじゃ先へと進もう!」



――――――・・・



そう言って森へと足を踏み入れてから暫く経った。

幸いにも空を見上げれば空が見える森だったおかげで今の時間帯が大体だけど把握出来た。

現在の時刻はざっと夕方過ぎ、赤とオレンジの空が段々藍色の空へと変わっていく頃だ。

あれから進んではいるけども特に敵性モンスターどころか非敵性モンスターに遭遇する事は無く、

ただ森林浴を堪能しているだけだった。

さすがに虫は生息しているが、蚊などこちらに対して害をもたらす虫などは見当たらなかった。

ガーネットに聞いてみたら 「蚊はこの世界に存在していない」 と答えてきたので驚きと変な安堵が立ち上った。

この手のジャングルや森などに生息する蚊はどんな凶暴な動物よりも危険な存在で、

下手をすると死に至る病を貰う可能性があるヤバい虫だ。

過去にこの蚊から貰った病気で死んだ事が何度あったことか・・・


「カイコ。そろそろこの辺りで野宿をしたらどうか?」

「同胞、ガーネットの言う通りですカイコ。これ以上の散策は危険を伴います」


確かにあれから結構な距離を徒歩で進んできたし、何よりあの激しい戦闘があった後だ。

僕はどうあれ、他の皆の疲労はピークに達してるだろう。


「わかった。 それじゃあここらで野宿としよう」


ボタンを押し、バッ!と音を立ててテントが開き、その中に寝袋を敷く。

テントの傍に折り畳み式の椅子を設置し、ゆっくりと座り込む。

こういう暗い中、明るさを考慮すれば焚火とか欲しくなるだろうが、

こんな獣やモンスターが多く生息する場所で呑気に明かりなんて灯すのは自殺行為だとこれまでの経験が教えてくれる。

薄暗い視界の中、バッグの中に入っている果物が入った袋を取り出す。

バザールでお礼にと貰った果物。

見た目的にリンゴと同じ種類の果物で、問題ないと判断してひと齧りする。

歯ごたえのいい感触と音、そして甘酸っぱい味わいを感じながら黙々と食べすすめる。

味的にも大丈夫と判断してファングにも与える。

ミミックにもと思ったけどなんか拒否された、あんまり食べ物を食さない方なのか?

・・・ここまでの自分、ほぼ無言だ。

なんというか・・・こういう時ってグルメ漫画みたいに心の中で語りまくってるだろうけど、

僕にそれ求めてもしょうがない気がする・・・

気が付いたら食べ終わって芯だけ残っていて地面にそっと置いた。

ファングも食べ終わったようだし、そろそろ寝るか・・・


「カイコ。そろそろ就寝するか?」


まるでゲームのセーブ前のやり取り。


「ああ。見張り、お願いね?」

「任せておけ。しっかり寝るんだぞ?」

「わかってる」


小さな苦笑いをしながら、僕はテントの中へと入り寝袋に体を入れる。

その間、ファングもテントの中に入ってきて僕の傍で横になる。

「ふふ・・・」 と微笑み、ファングの体をひと撫でして静かに横になり、眼を閉じた・・・。

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