第二話:森の中を行くことになったんですが......
「というわけだ、僕がこの世界に来たワケは」
森の中、荷台を付けた四輪バギーを走らせている僕は荷台に乗せてる二人の仲間に事情を説明していた。
ミミックと黒フードは僕の言葉を理解出来ており、なるほどと言う感じで黒フードは頷き、ミミックは蓋をパカパカして答えた。
今に至るまで数時間前・・・僕は大事な友との会合を終えて徒歩で帰っている途中だった。
友も社長だが僕と違って小規模の会社でネット配信の実況動画を出してそれに伴う広告や投げ銭と言った様々な収益を得て生計を立てている会社の社長だ。
社員も少数で殆どが配信者と編集者の両方を担っていて友もその内の一人だ。
僕の会社としてもホビー品なども作っているからその度に商品紹介とか依頼して良い広告塔になってくれてWin-Winな関係になっているわけなんだが・・・
あくまでこれは表の素顔であって、裏の顔も持ち合わせており、その実は町に蔓延る悪党の排除・捕縛の依頼を受け実行する・・・
時代劇で言う仕事人ってところだ。
その為、彼らの戦闘能力は僕よりはるかに強い。
今回の一件も、友が嗅ぎ付けくれれば突破口となってくれるはずだ。
今はただ、それに望みを賭けてみるしかないだろう。
僕はその望みが叶うその時まで足掻いてみせる。
―――場面が変わり、ここは冒険者ギルド。
数多の冒険者が集い、日々住民から届く依頼をこなして生計を立てていく場所。
そんな冒険者ギルドでは今、ちょっとした騒ぎが起きていた。
ギルド内でもランク上位に居る冒険者パーティが魔王の配下とされる者にやられて負傷して帰ってきたという話が広がっている。
ギルドでも指折りの存在として名高いメンバーとされており、その実力はA級の依頼を平然とこなし、S級の依頼があれば余程のことがないかぎりは達成して誰一人かけることなく戻ってくるほどで、ギルド内では魔王討伐を期待される勇者パーティと呼ばれている。
「おいマジかよ、あの勇者パーティが負傷して運ばれたって?」
「ああ、昼前の事らしい。 なんでも洞窟ダンジョンでのことらしい」
「えっ!? あの中級向けのダンジョンでか!?」
「どうも素材採取のクエストの最中に出くわしたらしい・・・」
「なんだって魔王の配下がそんなところで出てくるんだよ・・・?」
何故、中級クラス向けのダンジョンで魔王の配下が出現したのか?
なんの目的で? 勇者パーティがやられるとはどれほどの実力を持った奴だったんだ?
それらの疑問を含めた話題でギルド内はいっぱいだった。
当然の如く、一時的にクエストの受注は休止。
クエストに既に出ている冒険者は安全を確保した後に速やかにクエストを終えて本部に帰ってくるようにと伝令が回されていた。
ギルド直属の受付嬢たちは騒ぎが起こる中、迅速に対処して事態の収拾に急いでいた。
そんな中、ギルドの受付嬢の内一人が上の階へとこっそり足を運んでいく。
二階へと上がり、突き当りの廊下を歩いていき【医務室】と木製プレートに書かれた部屋の前に立ちドアをノックする。
「誰だい?」
「グライアさん、私ですミリアムです」
「あぁ、とっとと入りな」
「失礼します」
ミリアムが部屋に入ると、そこには話の中心となっている冒険者たちと白衣を来た老婆が一人対面していた。
入ってきたミリアムを見るなり浪人風の恰好をした髭面の男が 「おっ! ミリアムちゃ~ん♪」 とニヤついた顔でミリアムに向かってひらひらと手を降る。
「皆さんご無事で何よりです」
「無事なもんかい、ミリアム。 肩や腹、足まで負傷して中まで傷がいってるんだ。 冒険者じゃなきゃ致命傷だよ」
「そんなに・・・!」
「おい婆さん、ミリアムちゃんを不安にさせるようなこと言うんじゃねぇよまったくよぉ」
「うるさいよボンクラ侍。 他のメンバーの中で一番当たり所が悪い奴が偉そうに言うんじゃないよ」
「おっさん・・・」
「そんな面と目で言うなよ、たまたまお前たちの前に俺が立ってた。 そんだけの話だ」
「でも・・・」
「あ~! だからそう曇った顔してんじゃねぇよ勇者様がよぉ! 気にしすぎると身がもたねぇって何度言やぁ気が済むんだよ真面目ちゃんが!」
「そんだけ大声出せるなら内臓は特に異常ないね」
「ミリアムちゃんからもこいつに言ってやってくれよぉ~冒険者ってのは頑丈が取柄ってさぁ~」
「あはは・・・でもベンテンさん。 幾ら頑丈でも無茶だけは絶対にしないでくださいね? 必ず帰ってくることを私たちギルドはいつも願ってますから」
「やめときなミリアム。 この馬鹿どもにそれ言っても無茶して帰ってきてあたしの世話になるんだから。 今まで通りだよ」
「ですがグライアさん、私たち受付嬢は皆さんの無事と安全を祈ることも仕事の内なんです。 冒険者の皆さんには必ず帰るところがあると思ってもらう為にも・・・」
「相変わらず変なところで頭が固いねあんたは・・・」
この世界では様々な職業が存在し、その中でも多くの就職率が高い役職を纏める組織......ギルドが存在する。
魔法・農業・商業・飲食業、そして一番人気とされる冒険者とそれぞれ分かれている。
この冒険者ギルドでは、常日頃一般人や時折国から出される通常では解決が困難な依頼をこなしていくのがこのギルドの主な役割である。
採取・討伐・捕縛などといった依頼が大半で、特にこの世界に蔓延るモンスターを討伐する依頼が多く寄せ集められている。
その為、危険な任務に挑む彼らにとって負傷は当然であり、それと同時に生と死が隣り合わせの職場でもある......。
だが、冒険者たちもただ厳しい環境を生き抜いてきただけではない。
魔術師ギルドとの連携により編み出された肉体を強化する技術が発展し、強化魔術や魔法薬による肉体改造により通常の人間ではありえない頑丈で高い身体能力を身に着けることが可能となり、死亡率の減った冒険者は日々依頼をこなしていくのであった。
しかし、平和に保たれていた世界であったが、一つの大きな存在が彼らの日常を破壊した。
―――魔王
魔を制し、モンスターや悪魔を従え人間界を支配せんとたくらむ邪悪なる存在。
数十年前の事であった。
ある日、空が黒く染まり、邪悪なる魔王がその身を表し人々に言った。
「これより貴様らは我らが魔族の餌となり、滅びの定めを迎える」
その言葉の後、モンスターたちの様子は一変し、一部は凶暴化し人々を襲い、これまで見た事のないモンスターも出現するようになった。
世界は魔族たちの侵略により混沌と化し人々は救いを求め始めた。
そんな時だった。 時を同じくして天から眩い光が差し込み神々しい存在が現れた。
―――神
天使と共に舞い降り、人々を襲う邪悪なる存在を次々に消し去っていった。
幾多の神々は地上の人々に対して言った......
「美しく尊き人々よ。 我らの加護の元、魔を打ち払うのです」
人々は歓喜し、武器を取り始めた。
しかし、それでも魔族の力は強大で立ち向かう勇気があれど打ち勝つことは困難を極めていた。
そんな中、神々は冒険者に対して加護を与えた。
これより生まれる者、あるいは魔に立ち向かう者たちに一切の魔を断ち切るだけの力を授けたのだ。
それ以来、冒険者ギルドには神の加護を貰った者たちが集い、いつからか彼らのことを勇者と呼ぶようになったのであった......。
そして今、勇者と呼ばれる存在のが彼らなのである。
強靭な肉体を持ち、魔族を打ち払うだけの力を持った英雄。
それが彼ら冒険者たちなのだ。
「あーもう! ほんっと、なんであんな場所に魔王の手下が出てくるのよ!」
「アイリちゃんの言う通り、あそこは冒険者ギルドが幾度も攻略したダンジョン・・・魔王軍がやってくる可能性は限りなく少ない場所です。 なのにどうして・・・」
「はい、リーファさんの言う通りあの洞窟ダンジョンは過去に攻略されてモンスターは生息していますが凶暴化やモンスターが外に出ることもない安定したダンジョンと化しています。 魔王軍が手を出すにしてもメリットが少ないので出現するのはありえないのですが・・・」
「んじゃあ、あの白い奴は魔王軍の配下でもなんでもない本当の冒険者だったと?」
「違うと思う・・・」
「ジータ?」
「あいつ、ミミックとあの死神と対話出来てた」
「対話って・・・あんたそれ本当なのかい?」
ジータは頷いた。
あの時、彼は死神の傍に近寄って何か耳元で話していたのを見た。
明らかに死神も彼の話に答えるようにミミックを抱えて逃げるといった普通ではありえない行動をした。
ここから推測できる答え、それは―――
「魔族を操っていた。 つまり、魔王の配下の可能性が大きいというワケか」
「そう考えていいと思う。 私が背後を取ってもふざけたフリをして冷静に対処してた、相当のやり手」
「確かに、あのへんな荷車みたいなものとか持ってたし、十分怪しいわね」
「荷車?」
「すっげぇ小さい荷車だよ、手押し車に近い感じだが、乗せるところが平べったい感じの奴だ」
「なんだいそりゃ、普通手押し車なんざ農家か赤ん坊乗せるもんしかないよ」
「それをあいつはミミックを乗せてた」
「はぁ!? あんたら変なでっち上げしてないだろうねぇ?!」
「ところがどっこい、本当なのよ。 俺だけじゃなく全員見ちまった。 つーかそれどころかあいつはその荷車を変化させて馬を使わない馬車に変えて逃げやがった」
ベンテンの言葉にグライアは困惑した。
さっきから挙がる報告が突拍子過ぎるどころかありえないが過ぎて白昼夢でも見せられてるかのような気分に陥る。
ただでさえ魔族と協力しているだけでは飽き足らず、荷車を馬車に変える、しかも馬を使わない馬車とかいう神話でも存在しない代物を彼らが見たのかとにわかにも信じがたい......
「あんたらねぇ・・・年寄りの頭を壊すほどに痛くなるような話持ってくるんじゃないよ・・・」
「ごめんなさいグライアさん、でも事実なんです」
「いいよ勇者の坊ちゃん。 あんたがそんな面で言うってことは本当ってことなんだね・・・まぁ、あんたらから出てきた代物見てたら信じざるを得ないさ・・・」
「というと・・・?」
「あぁミリアム。 あんたにも見せるが、こっから先は大事な話だ。 ギルド長を呼んできてくれ」
「―――っ! わかりました、直ちにお呼びします」
グライアの言葉にミリアムは何かを感じたのか、急いでその場から去り、数分後......
「グライアさん、ギルド長をお呼びしました」
「あぁ、ご苦労さん」
「おう、グライア。 大事な話だってな・・・」
ミリアムの後ろから巨漢で白髪髭面の男が部屋に入ってきた。
筋肉質なその肉体に着ている服もピチピチ気味で少しでも力を入れようものなら服が弾けそうなほどだ
「あぁゴウーダ。 あんたにはこれを伝えておこうと思ってね」
そう言ってグライアが取り出したのはトレーに乗せられた金属の塊だった
「これは・・・銃弾か?」
「察しがいいね。 そうだ、こいつらから出てきた弾丸だよ。 但し、ありえないのおまけを添えてだけどね」
「どういうことだ?」
「こいつらが対峙した奴は一人だったってことさ、ほらっ戻ってきた時の話をこいつにしてやんな」
「はい。 ギルド長、僕らが魔王の配下と思われる者に襲われたのは知っていますね?」
「あぁ、報告は受けている。 下の奴らもその話題で持ちきりだ」
「それなんですけど・・・奴は、僕らから逃げる際に馬車を使わない馬車に乗り、そしてどこからか銃を取り出して撃ってきた」
「はぁ?! 馬車を使わない馬車って・・・」
「まぁ普通聞けばそこにツッコみ入れるだろうね。 さっき聞いたあたしも耳を疑ったよ」
「いや、でも・・・うっうぅんっ! まぁそこは後で聞くとして・・・銃を取り出して撃ってきたことにどこが不信な点がある? この世界では銃は冒険者でも使う代物だろう?」
「だけど、弾やメンテナンスで費用が掛かるってんで余程肌が合う奴じゃないと愛用しない代物だがね。 でもこの弾丸の数を見てあんたは疑問に思わないかい?」
「弾丸の数・・・? ―――っ!? おい、まさか!?」
「わかったようだね。 そうさ、どこの国の技術をもってしてもこれだけの数の弾丸を逃げている際の短時間で瞬時に連続して撃つことは不可能だ」
この世界において、銃は存在する。
弾丸と火薬を込め、撃鉄を起こして発射する。
つまり単発式であって、連射式はどこの国の技術、それこそ武器製造の技術が発展した国でさえもその技術には到達していない。
そもそもこの武器は神が武器職人たちに技術を貸し与えたもの......
神の技術を理解するには人類は向こう100年掛けねば到達しない領域なのである。
だが、例外もあるそれは―――
「まさか、そいつが扱っていたのは“神器”だった・・・とは言わないだろうな?」
「その問いは、あんたが一番答えを理解してると思うけどね?」
ゴウーダは困惑した。
まさかそんな。
神器とは、神がこの世に君臨し、冒険者などに力を貸しえた際、特定の者―――この世でもっとも神の力を貸し与えられた勇者
“英雄”に与えられる武器であり、その力は強大で、この世界で国々同士のいざこざや争いといったものが起きていない要因の一つとされている。
それだけの代物を魔王の配下が握っていたとなると......
「英雄が魔王の配下にやられることはまずありえない・・・仮にだとしても、そのような報告は一度も上がっていない」
「確か、銃の神器が与えられたのは―――」
「私が所属する教会、フォルテの神官であり冒険者である英雄ルシア様です・・・でも、あの方がやられるのは・・・」
「アポロムは、神が君臨した聖地であり、魔王軍もあそこには容易に近寄れん」
神の都アポロム。
人工は一万を超え、中心には城のように巨大な教会、フォルテが存在している。
そこはかつて魔王軍の進行の際に人々の目の前に現れた神々が降り立った場所として聖地となり、そこでは早い魔王軍との戦闘の収束を願う者や魔王軍の手により崩落した村の生き残りなどがここを頼りにやってきている。
都のあちらこちらには神兵と呼ばれる神と都を守護する甲冑兵が居り、例え魔王軍が攻め入っても撃退出来る程の力を秘めている。
その神兵を束ね、日々魔王軍討伐へと赴いている者が英雄ルシアなのである。
魔王軍が恐れるこの都が襲われ、英雄ルシアが討たれるのは到底ありえない。
考えられるとされる推測は一つ―――
「邪神の可能性が高いな」
「そんな・・・!」
「それ以外ありえん。 奴らは神出鬼没、人間にも魔族にさえ味方しない奴だ」
邪神。
神と人間が魔族と戦っている最中に現れた第三の勢力。
異様な見た目をしており、鉱物のような煌びやかでありながらどこか禍々しい姿をしている。
その存在は一切不明で、現れては何かを告げているが何を言っているのか分からず、魔族とも共存はしていない謎の存在。
しかし、神は彼らを「邪なる神である」と告げ、その通りに彼らは人間に対して攻撃を仕掛けてきた。
その力は凄まじく、過去に神器を持った英雄と戦い、英雄が跪いて暫く動けなくなるという異例の事態まで発展し、神の力と同等、あるいはそれ以上のモノだと恐れられた。
彼らの中には死神と呼ばれる魔族とも違う、邪神とは違い下級ではあるが、A級クラスの冒険者でも苦戦するほどで民からは死を与える神として恐れられる存在が確認され、冒険者たちは彼らに対して苦戦を強いられている。
一説では、魔族と人間の戦いの間に現れる死の存在として語られている。
「んじゃあよ、ゴウーダのとっつぁん。 あいつは死神とでも言うのかい? あいつに遭遇する前に俺たちが対峙してた奴は死神ではあったが、あいつは死神にしては風貌が全然違ってた」
「わたしもおかしいと思うわ、だってあいつの私たちに会話してきた時の言葉、ちゃんと理解出来た」
「じゃあ魔王の配下みたいに奴は御使いとかそういう類だってのか・・・?」
「ギルド長。 それが確かならば、それはとても恐ろしいことになります」
「あぁ、リーファの言う通りだ。 俺たちはあいつを逃がしてしまった、負傷まで受けて・・・」
「いや、むしろそれでよかったと思える。 もし、本当にそいつが邪神の御使いという存在だったのならば、英雄を超える力を持つ奴だ、下手すればお前たちが殺されていた可能性が高い。 むしろ負傷で済んだだけ幸運だったと思われるな」
「幸運ですって?! ギルド長、あんた何言ってんのよ! 英雄を倒せるかもしれない程のやばい力を持った奴が野ざらしになってるのよ!? あんたこれの意味わかって・・・!」
「アイリちゃん落ち着いて! ・・・悔しいけど、ギルド長が言ってることは私には理解出来る・・・あのルシア様でさえも倒せるかどうか危険視するほどの力を持つ危険な邪悪なる神です。 例え勇者の力を秘めた私たちが全力で挑んでもどうか・・・」
「だからって・・・! だからって、こんなの・・・負け犬みたいじゃない・・・」
辺りが一気に静まり返る。
「この話はこれで終いだ、後の対処は俺に任せろ。 ミリアム、通信魔法の準備手伝ってくれ」
「は、はい!」
ゴウーダとミリアムは医務室から出ようとして、ゴウーダが出入り口でピタリと足を止めた。
「俺はよ、どんなにみっともなくてもオメェらみたいな冒険好きのバカ野郎どもが生きてくれてりゃそれだけで十分誇らしいし嬉しいんだよ」
そう言って去っていった。
ドアが閉まり、医務室には静寂が再び続く......。
「さてと、あとはおっさんに任せて俺たちは傷の治りを早める為に安静にしときますかねっと・・・」
「おっさん、あんた豪くのんきなもんねぇ・・・けど、そうね。 さっさと治してあいつにリベンジしてやるんだから!」
「おっ! 随分と素直じゃないのぉ~ちびっ子~おじさん嬉しいぞぉ」
「うっさい! あの時あたしは何もできなかった。 それが悔しいからいち早く挽回したいだけよ!」
「アイリちゃん・・・」
「ハハハ・・・ってーわけだ。 俺たちの勇者様もとっとと横になって英気を養うこった。 だからそんなしけた顔すんなよ、お前らしくもねぇ」
「そうですよユウさん。 例え今はダメでも生きていればこの先勝てる未来があります! だから今は休みましょう!」
「みんな・・・うん、そうだね! 例え僕らだけじゃ無理でも冒険者であるみんなの力があれば魔王も邪神も倒せる筈だ! みんな、頑張ろう!」
「はい!」
「当たり前でしょ!」
「よーし! んじゃ、そういうわけだからみんなお休みだ~」
「まったく、元気があって何よりだよあんたらは・・・」
(けど、本当にあの邪神に御使いとかいうモンが出てきたのなら・・・これはちょいと不味いことになりそうだねぇ・・・)
―――バギーを走らせて大分経ったか。
途中、ガソリンが切れてそこいらの植物をパンドラシステムを使って分解、ガソリンに変えて補給をした。
この力、これぐらい程度の許容範囲なら鼻血も出ずに済むから便利っちゃあ便利。
ただ・・・どこまでが許容範囲なのかは経験で判断しなきゃならないから、やっぱり変なところで不便ではある。
まぁそこんところはさておいて、再度出発したけどこの森豪く深くない?
色んな植物が生えている割には結構開けてるし、ありがたいことだが整地されたようにまっすぐな道が続いている。
脇道には木々や茂みに覆われているが上空は太陽がサンサンと照らしていて木々の隙間から光が漏れ出てるのもあって意外と明るく森の中でも先がはっきりと見えて安心して運転出来る。
「二人とも大丈夫? 特に黒フードくん太陽とか弱そうに見えちゃうけど平気?」
そういう質問を投げるが、黒フードは何ともないという感じで軽く会釈した。
蓋を開け閉めするしか自身の伝えたい事が伝えにくいミミックもそうだが、彼らのような人とは違う種族の者は対話は洞窟で出会った彼らのようなこの世界の住民には難しいのだろうが、僕自身の経験上こういったコミュニケーションでの対話は結構慣れている。
このコミュ力の高さのせいでウチの会社が海外進出までしちゃってそこそこ面倒くさいことにはなってるけど・・・
会社運営や僕自身のやりたい事に関してお金は必要不可欠だけど正直な話、僕は地下の自分の工房でゆっくりしている方が性に合ってるんだよなぁ・・・
まぁそれもまたその性に合う趣味のせいで会社が出来上がってデカくなっちゃったのもあるけど・・・
『アォーーーーー・・・!』
近くで狼の遠吠えが聴こえた。
遠吠えが聴こえて一分足らずで前方横の茂みからガサガサと音を立てながら一頭の狼が出てきた。
とても黒い毛色をした美しい狼だ。体長はどれぐらいあるのだろうか?
通常の大型犬よりやや大きめの体を持つ狼はこちらの進行をふさぐ様に立ちふさがる。
仕方がないからバギーを止めた。
あれほど体型ならばバギーで轢こうにも力負けしそうだ。 そしてなにより良心が痛む。
僕が座席から降りると黒フードも荷台から降りてきた。
「大丈夫、そこで見てて」
鎌を構えようとしていたから止めに入った。
狼はこちらをジッと見つめていた。
中々いい毛並みをしている。日頃から毛づくろいをしているのかな? 顔つきもとてもイケメンさんで結構好みだ。
向こうはこちらに対して飛び掛かる姿勢を取っている。
問題ない、初期の頃は2~3回程度か無残にも喉笛を噛み切られて殺された事もあったが、今じゃ手慣れた相手だ。
むしろ好きになってる類の動物だ。
『ガウ! バゥ!』
そう吠えると一気にこちらに向かって飛びついてきた。
しかし、開いた口を上下ともに両手で掴み、そのまま勢いに任せて地面に叩きつけた。
狼の首元に全体重を乗せる。体格差もある分あまり抑えれてる感覚は感じないが狼は背中を打った痛みかその場に少しジタバタしてる程度だった。
口を抑える手から唾液と共に血が滲み出る。少し牙で指を切ってしまったようだ。
これだ。この牙だ。この鋭く綺麗な白い牙こそ狼の象徴とも言える武器だ。
僕の血が滲み出て赤く染まる牙が我ながら少し綺麗だとも思えてくる。
狼は口を閉じようと必死だが無駄だ、今まで以上の力で抵抗してるんだ、閉じさせはしない。
「君は、とても綺麗だな!」
抑えきらない興奮で思わず声が漏れた。
傍から見たらやべぇ奴にしか見えない。
そうこうしていると首を抑えてたのもあってか、気が付けば狼はぐったりとなっていた。
別に殺したわけじゃない、離れると横たわる狼はハッハッ・・・と息を切らしている。抵抗できる体力が無くなっただけだ。
黒フードはこちらに近づき大丈夫かと言いそうな雰囲気で僕の背中を片手で摩り、もう片方の手で傷ついた僕の手に触れる
ジッと黒いモヤで見えない顔で見つめると僕の手に滲み出る血がその顔に向かって吸い込まれていき、それと同時に手に残る傷がスゥ・・・と消えていく。
「・・・君の力?」
そう問うと静かにこくりっと頷いた。
「ありがとね」
少し微笑みながらお礼をいうと照れくさかったのか少し顔を反らした
『キューンキューン・・・』と声と共に体力が少し戻ったのか息を切らしながらゆっくりと狼は起き上がった。
そんな狼の前に向かい、目線が合うように跪いて彼に言った。
「まだやる?」
それを聞いた狼は降参だと言わんばかりに顔を静かに下した。
「そっか。それじゃあ、ここを通らせて・・・」
体を上げて視線を上げると、そこには大きな熊が居た。
距離から計算するに少し遠い場所だがその巨体がはっきり見えた。
よだれを垂らし、フッフッ・・・と熊独特の呼吸音を鳴らし、時折ブォォ!と唸っていた。
黒フードはすかさず鎌を構えた。当然だ、熊だもの。逃げるという誤った選択肢は選ぶわけにはいかない。
熊って確か自動車並みの速度で走れるって話だったよな、体験したけど自動車より早い説もありえるよ本当に。
あれだけの巨体だというのに車並みかそれ以上の速度で走れるとかもう化け物としか言えないのよ。怖いのよ本当に。
このバギー、ガソリンは先ほど満タンに入れているとはいえ、どんなにエンジンをフル回転させても追いつかれる。
スポーツカーでもなきゃまず無理。そんだけの代物をパンドラシステムで組み直す脳のスペック・・・というかそれに費やす時間すらない。というかスポーツカーでも追い付かれそうで怖い。
だから狼なんて可愛いもんなのさ、動物界で一番残酷で恐ろしいのは熊なんだ。
こいつに何度殺され食われたことか・・・もはや羆嵐級の実話本が作れるレベルのエグさを何度も体験した。
思い出す度にあの痛みと恐怖が脳を支配する。吐き気も感じてきた・・・
『グルルルル・・・』
狼くん?君、まさか立ち向かってくれるのか?一緒に戦ってくれるのか?
『ガタガタガタガタガタ』
ミミックも震えながら荷台から飛び跳ねて降りてきた。
蓋をパカパカと開け閉めしまくりながら「俺もやるぜ!」と言わんばかりにやる気満々だった。凄く頼りがいのある奴に見えるぞ君。
「すぅ・・・ふぅ~・・・死んでやるもんか・・・」
もう覚悟は決めた。こいつを倒す。
僕の世界に過去居た伝説のマタギよ、異世界に居るから祈っても無駄かもしれんが僕に力を貸してくれ・・・!
あの熊を倒すだけのありったけの力と知恵を・・・!
『ブオォォォォッ!!!』
熊がその巨体を走らせ、こちらに向かってきた。
僕は手に持つ銃を構えて三発撃った。
弾丸は二発熊の肩に命中するが、一発は外れる。
それでも熊は怯まず相変わらず高速で走ってくる。
もはや戦車がこちらに走ってくる感覚だ、このまま轢き殺されそうだ。
『バウッ!』
狼がこちらに走ってくる熊目掛けて先行し、すぐさま互いの距離がゼロまで到達する。
そこからは狼の上手い戦い方が進む。 狼は熊の喉に食らいつき、熊は痛みで堪らないのかその場に止まって立ち上がると狼を引きはがそうと手を振り回しながらもがく
「黒フードくん! 行って!」
そう指示すると黒フードは鎌を構えながら狼同様の素早さで近づき、鎌を振るった。
鎌は熊の腹部に当たり、余程鋭い切れ味なのだろう、血しぶきをあげて腹から少し内臓が漏れ出ていた。
だが熊は『グオオオオオオ!!!』と悲鳴を上げるように咆哮すると今度は黒フードに向かってその両腕を振り下ろした。
「させるかよ・・・!」
パァァーーーン!という銃声が辺りに響き渡り、熊の胸に大口径の弾丸が当たる。
狼と黒フードが戦ってくれてる間に僕はパンドラシステムを起動させ、拳銃をライフル銃に組みかえていた。
さすがに耳栓とかを作る暇もなかったから耳がキーンとする。
それを我慢しながらボルトを引いて薬莢を出して次弾装填して構える。
奴はまだ死んでいない。『グルルルル・・・』と小さく唸っている。まだ動けるんだこいつは・・・!
『グオオオオオオオッ!!!』
耳にビリビリと響く轟音の如く咆哮を上げて再び四つん這いになり、こちらに向かってくる。
黒フードは熊のあまりの巨体に圧倒され、轢かれはせずに回避出来たがそれと同時に確実に向かって熊は迫る。
距離は人間で計算しても15歩ぐらいの距離、だが熊にしてみればもはや目の前も同然、既に距離は縮まっていた。
首に食らいつく狼は勢いよく走る熊に対して顎の力を全力で集中させているのか不慣れようとしない。
「やっぱり君は強くて綺麗だ・・・!」
大丈夫、君には絶対銃弾は当てない。当ててやるもんか。
すぅ・・・と息を吸って止める。
今だ。トリガーを引こうとした。
次の瞬間、熊の背中にミミックが落ちてきた。大口を開けた方を向けた状態で・・・
声とも言えない声を上げ、熊は重さと痛みで地面に滑るように倒れこむ。
それでも狼は首から口を離さない偉いぞかなり良い!
『ブオォォォォ!!?ガアアアアアッ!!!』
何が起きたのか困惑してか痛みがする方へもがこうとするけども重みで動けないのか、それとも食い込むミミックの牙が痛むのか、はたまた両方か、まともに動けずにまるで駄々をこねる子供のようにジタバタする程度だった。
「はぁ~・・・」
もうなんというべきか・・・とりあえずよくやった、今回のMVPは君だよミミック。
僕は倒れこんでる熊の眉間に銃口を当てる。
「もういいよ」
そういうと自分に言ったのかと理解してか、狼は熊の首から口を離し後ろに下がった
それを見届け、僕はすぅ・・・と息を吸ってふっ!と吹くと共にトリガーを引いた。
銃声が響き、目の前に倒れてもがいていた熊はもう動かなくなった。眉間に大きな穴を開けて・・・
あれから1時間経過して、僕らはバギーを走らせていた。
あの後、銃声を聞いてまた厄介なモンスターや動物が来ることを危惧して熊の死体をそのままに逃げるように走らせた。
熊の死体は言わば他の厄介なモンスターがあの場にやってきた際に囮としての役割を果たすと判断しての放置だ。
それ以前にあんなクソデカい死体を荷台に乗せれるか。
パンドラシステムを利用するなんて手も無い。パンドラシステムは変な所で万能じゃない。
過去にああいう死体などの肉体を別の物質に変換できないかとやってみたが、見事に不発。何も起きなかった。
パンドラシステムの錬金術の機能はあくまで無機物に対してのみ働く、人体錬成とか漫画みたいな所業なんざ出来やしない・・・
「あっそうだ・・・」
後ろは振り替えず、前を向きながら後ろに声を掛ける。
「狼、成り行きとはいえ君は僕らについてきた、まぁ仲間になったということだ」
『バウッ!』
狼は僕の言葉が理解できるのだろうか? 答えるように吠えた。
「仲間になったけど狼くんなんて味気ない呼び名は少し気に食わないからなぁ・・・君に名前を付けたい」
『アゥゥ~?』
やっぱ僕の言葉理解してるなこの子・・・
この世界の生き物の多くは他人の言語を理解できるようになってるようだ。
さっきの熊はどうだったかはわからないが、あれほど凶暴なら例え理解出来てたとしてもお構いなしに攻撃してきてただろう。
「あの熊との戦いでもう名前は決めたんだ “ファング” 牙を意味する名前だ。どうかな・・・?」
『アォーーーーー!』
「それはその名前で良いってことかな?」
『バウッ!』
「そうか。じゃあ決まり! さぁて、いつになったらこの森を抜けれるかなぁ」
バギーは出口に向かって走りだす。
荷車に新たな仲間を乗せて・・・。
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