第9話 児童相談所
約束した当日、少し早めに両親が来た。これは、良い方向に進むかとAは思った。だが、男は、女に引きずられて仕方なく来所したように思えた。
本当に、実の父親なのか、それとも女が一人で行くのは、いやだからと男に一緒に行くように頼んだだけなのか。相談室で、二人と対面した。こちら側は、相談課の課長と私、相手は、こうのとりのゆりかごに子どもを預けた親だ。
「お名前と住所を教えてください。よろしければ、運転免許証で確認させてください。お二人は結婚されているんですよね」
「いえ、未だ結婚はしていません」
「え、お名前は、さんですね。あの乳児院に勤務されていたさんですよね。」
「はい、そうです」
「あなたが、子どもをこうのとりのゆりかごに預けられた方なのですか。間違いではないんですか」
「間違いありません」
「お二人が、お子さんの両親であることは、間違いないですね」
「ええ」
母親は、肯定したが、父親は、かすかにうなづいただけであった。
「親子関係の確認のため、DNAの提供を求めることになりますが、よろしいですね」
「ええ」
男は、あまり乗り気ではない。
翌日、二人は、指定した病院に行き、DNAの検体を提供した」
一週間後、
「課長、DNA検査の結果が出ました。あの男は、あの子の父親ではありません」
「え、それじゃ、誰の子なんだ」
課長が、驚いたように尋ねた。
「それは、分かりません。母親には確かめるつもりですが」
DNA検査の結果を伝えるために、 子を呼んだ。
「先日のDNA検査の結果が出ました。言いにくいことですが、父親は、あのSさんという方ではありません」
「え! そんなことが、何かの間違いではないですか」
「十分な量のサンプルを提供していただきましたので、間違いの可能性は殆どありません。父親は誰でしょうか」
「私、私のことを疑っているの。私は、あの人以外に、関係は持っていません。間違いありません」
「実子ですから、片親だけでも引き取ることはできますが、出来れば両親が揃っていると、ありがたいのですが」
「わかりました。とにかく、話しを整理してきます」
当然だと思った。父親が誰なのかを決めないでは、私自身も嫌な気がする。私は、それほどふしだらな女ではない。
子どもが、現在、里親に預けられていることが分かった。優しい里親なら良いのだが。
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