第7話 就職

 でも、まだ早い。社会に出るときから、シングルマザーではハンデが大きすぎる。子どもを育てられないなら、施設に預けて育てられるようになったら引き取るという方法もあると、電話の主は教えてくれた。これは、児童福祉論で学習したことだ。あの講義は、全く役に立たないわけではないのだ。

 就職先が決定した。乳児院だ。希望と一致した。熊本県に行くこととなる。でも、自分の子どもを他人として世話するなんてことが実現するのだろうか。もし、それが実現したら夢物語のようだ。いずれは、親と名乗り出て、自分で育てたい。その前に、あいつと結婚できればいいんだが。

 施設に就職してから二ヵ月が過ぎた。ようやく身体が慣れたとはいうものの、夜勤明けは辛い。若いから、睡眠不足でも乗り切れるが、一生の仕事ではないと思う。

 しかし、乳児院の子ども達にも人気者がいるのには驚いた。男女を問わず、可愛いことが条件だ。こんなチビのときからキレイとか可愛いとかで、人生が決められるのかと思うと、神様を恨みたくなる。

 保育士と言ったって、人間だから可愛い子どもの前に立てば、つい微笑みも出てくる。それがブスのガキだったら、別な意味で可愛いが、それだけだ。

 一歳を過ぎた子ども達は、もうかなり大人の感情を持っている。毎週土曜日、帰宅できる子どもの場合は、その日の朝から、他の子ども達が、帰ることができる子を囃したてる。迎えが来れば、大騒ぎだ。そして、その子がいなくなると、急に静かになる。神様、不公平ですね。

 私の子どもは、どんな顔をしているのだろう。案外、一番のブスだったりして。笑いたくなるが、ちょっと寂しい。

 施設には、ボランティアや見学の方が多く訪れる。その人達が口にするのは、

「大変な仕事をして、あなたたちは本当に天使ですね」

ということだ。こんな薄汚れた天使がいるのだろうか。あなたたちは、知らないでしょうが、私は、子どもを捨てた女です。天使ではなくて、悪魔です。羽はぼろぼろで、天国に向かって飛び立つこともできません。一生、こうやって地面を這いずり回る運命です。

 そういえば、私の子どもはなんて名付けられたのだろう。それも知らずに捜すことなどできるんだろうか。私は、堕ちた天使だ。

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