第3話 妊娠

 生理が遅れている。元々、順調なほうではないから、もう少しで来るとは思うが、もしかしてとも思う。あいつとのセックスは突然始まる。場所は、私の部屋が多い。セックスしたい時のあいつは、何故かイライラして、自分でも持て余しているようだ。○子に言わせれば、それは、あいつだけのことではなくて、男はみんなそうだという。

 その時、あいつは襲ってくる。心の準備も何もできない。一方的に挿入と射精が終わる。終わった後、あいつは、手荒に扱って悪かったというように、親切にしてくれる。この親切さがなかったら、あいつとの関係は終わっているだろう。あいつにとって、私の身体って何なのだろうと思うことがある。

 一ヶ月待っても、生理が来なかった。産婦人科に行くしかない。でもなんだか産婦人科って入るのが怖い。二〇代から三〇代の女性が大部分で、中には男性も付き添いでいる。恋人が一緒について来れれば、ずいぶん気持ちも楽なんだろうと思う。受付で看護婦が、じろっと私を見た気がした。

 しかし、妊娠しているかどうかを調べるには、医者にかかるしかない。一番、驚いたのは、下着を脱がされて脚を拡げられたことだ。指も入ってくる。セックスなら気にもしないが、他人の手があそこに入るのは、良い気持ちではない。

 医者が

「おめでたですね。妊娠四ヵ月目です」

と言ってくれたが、うれしくはなかった。誰も祝ってくれない妊娠なんか、おめでたくもなんともない。

 妊娠したと分かって、あいつにそのことを話したら、堕ろしてくれと言っていた。堕ろす費用の話しはなくて、ただ堕ろしてくれよはないだろう。まあ、二人で育てようなんて言うはずもないとは思っていたけど。 

 病院の受付で、市役所で母子手帳を交付してもらってくださいと言われた。そんなことは、分かっていたが、もらう気にはなれない。そんな手帳をもらって、定期健診を受ける気にもなれない。こんな小さな市では、他の妊婦と一緒に健診を受けていれば、すぐ私だとわかってしまう。

 でも、まさか、自分が妊娠するとは思っていなかった。アレが遅れていたから心配はしていたけど。あいつが、絶対妊娠させないからといったから避妊しなかったけど、結局、できていた。

 セックスは、嫌いではないけれど、まだ気持ちよさは分からない。これからもその気になれば、セックスをするだろうけど、でも今度は絶対に妊娠はしない。

 しかし、あいつ以外に、妊娠したことを誰に話せば良いんだろう。パートで忙しい母親に話したら、泣きわめいて逃げ出したくなるだろう。父親に話したら、相手と話を付けてこいと怒鳴られるだけだ。

 ○子は、以前、高校の同級生が妊娠したときに、クラスで募金をして、処置費用を工面したといっていた。私もそれに乗ろうか。でも、私のおなかの中にいる命を殺して良いのかな。それもいやだ。だからといって、ぐずぐずしていると、胎児が大きくなって、中絶することもできなくなる。どうすりゃ、いいのさ。

 大きくなったお腹に気がつかれないように注意してきたけど、もしかするとアルバイト先の店長や同僚は、気づいていたのかもしれない。でも気づいていたとすると、何も言わないのが不思議だ。

 テレビでは、よく妊娠した女性が、悪阻で吐いていたりしたけど、あれは本当のことだった。私も学校で吐き気に襲われて大変だった。同級生は、気づいていたかな。

 あっという間に、二十二週を過ぎ、中絶手術が受けられなくなった。おなかはどんどん大きくなる。学校にばれれば退学になるかもしれない。周囲にはひた隠しにした。

「流れないかな」

おなかに重い物を入れたバッグを落とした。

「このまま誰にも気づかれずにすめば」

だが、命は強かった。堕ろす決断もできず、かといって育てる決心もつかず、とにかく私は、ずるずると日がたつにまかせた。もう、臨月が近かった。

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