01-09「鬼の面」
「何か前よりも大きくなってない? それに何か変なお面とか追加されているし!」
翡翠色のロングヘアを輝かせながら立つ
「やっぱり、他の【
「そうなのですか? 私には姿が見えないので分かりませんが、ただ、ラジオから今までに聞いたことのない雑音が発せられています。正面……いえ、あの門の上にいるのですね」
翡翠の左隣で草刈り用の片手鎌を持った
「芝原さん、千歳さん」
「待たせてごめんね。わっちらも罠にはまってた。それに、前よりも強そうだし、確実に勝てるとは言えないけど、大丈夫。絶対に守るから。それが【
「時間を
目の前で子供三人が話をしているが
「まずは足下を何とかしよう。こう糸が張り巡らされていたんじゃあ動きにくい。【
「賛成です。お願いします。
そう
「あれ? 糸は……」
「範囲としては半径二〇メートルです」
「問題ないよ!」
そんな良祐の疑問は無視され、
≪
(え?)
良祐の脳内にのみ響く声が驚きを表すと同時、翡翠の表情にも驚愕の色が出ていた。しかし、すぐに対応して器用に鍬の
「芝原さん!」
現在、友希道は自身の与えられた任務を全うしようと恐怖と戦っている。それもただの戦いの恐怖だけではない。友希道は、その体質から【
≪正しい順序で入ったにも関わらず互角か……≫
(順序?)
≪
(……)
脳内で謎の声と会話している間も目の前で戦いが続く。
相手は、以前
『
その目まぐるしいほどにまで動き回る様子に、良祐は段々と焦りを覚えていく。だが、彼の前に立つ友希道の手にある鎌が強く
「ごめんね千歳さん、俺がいるばかりに
「いえ、私が行った所で戦力にはなりません。このラジオと風切り鎌のおかげでほぼ不自由なく戦えますが、完全ではありません。それに、元々の
その声は平静を保っているようだが、恐怖と悔しさが混じっているように聞こえたのは、良祐自身がその感情を持っているからだろうか。
その時、突然何かが良祐達のいる所まで飛んできた。
「っ! 芝原さん!」
友希道は叫ぶも、すぐに「大丈夫」と声がして、遠くから飛ばされて地面に叩き付けられた翡翠は身体を起こした。
「『
「分かりました。佐藤さん、行きましょう」
「わ、分かった」
返事をした二人は、急ぎ足で翡翠の指示通りに移動を始める。すると、それに反応してか蜘蛛型の【
「邪魔はさせないよ!」
しかしすかさず翡翠が間に入り、野球のバットでボールを打ち返すようにフルスイングして蜘蛛を押し返す。
「やっぱり狙いは佐藤君みたいやね! 友希道ちゃん、何としても佐藤君を守ってね!」
「分かりました。芝原さんもお気を付けて」
「大丈夫! 何て言ったって、現役最強の【
そう元気に告げて、再び敵と
逃げながらも、チラチラと翡翠の様子を
「俺は無力だ……」
「佐藤さん?」
「守られてばかりだ。
「今は、生き延びることを優先して下さい。そうでなければ、私も芝原さんも、あなたを助けに来た意味がなくなります」
「分かっている。分かっているけど、悔しいんだ」
「佐藤さん……急ぎましょう」
「……あぁ」
何かを言おうとするも友希道はすぐに言葉を飲み込んで、代わりに口から出たのは
ガァン!
すぐ近くで金属同士がぶつかるような激しい音がした。反射的に目を向けると、所々に傷を負いながらも必死に鍬を振るって【
それを見た良祐はハッとした。そして、無言で
先程までの彼は別に生きることを諦めていた訳ではなく、むしろ生きようと
≪ほう、良い目じゃ≫
「ありがとう」
「? 大丈夫ですか?」
「あぁ、行こうか」
「はい」
この狭い通りを抜ければ『円鏡寺公園』だ。一応『円鏡寺』の敷地の一部ではあるが、特に境界がある訳ではないので守護の
先程の脳内の声との会話から『円鏡寺』の参道へ、横から入るのではなく正式に正面の楼門を経由して入れば、境界の役割が働き、十分な守護の
「そうですね。
「というか、敷地ならその守護する
「明確な境界がなければ意味がありません。
「えぇと、ガスの充満した部屋から壁を取っ払う感じかな?」
「ガス……まぁ、それで良いです」
≪お主らも余裕じゃのう≫
良祐にだけ聞こえる声がツッコミを入れてくる。
戦いの音が若干離れていったことによるということは、翡翠が必死に押し
通りを抜けて、目の前に公園が見えた。その瞬間。
「どわぁ!」
「はっ、し、芝原さん!」
「芝原さん! 大丈夫ですか!」
「だ、大丈夫」
目の前で、地面に翡翠が叩き付けられる場面が飛び込んできた。
見た所、身体のあちこちに
逃げに使っていた細い道は、両側に民家が立ち並んでいたこともあって彼女の様子が見えなかったとはいえ、こんな目の前に飛ばされてくるような位置にはいなかったはずだ。
(距離は芝原さんが十分稼いでいたはず、なのに……)
≪ふむ、彼奴め、更に
(どういうこと?)
≪おそらくじゃが、周囲にいる小さく弱い【
(喰らうって、仲間を食べているのか!)
≪彼奴らに共食いの意識があるのかは分からんが、どうせ喰らっても魂が一つになるという感覚しかないのじゃろうて≫
(そんな……)
≪しかし、ここからどうするかじゃな≫
「! 目の前に!」
そこには、再び道を塞ぐようにして立つ鬼の面をした巨大な蜘蛛であった。その姿は、先程よりも少しだけだが、色が違うように感じる。そして、心なしかトゲも増えているように良祐の目には映った。
「大丈夫。もう一回押し込むよ!」
「あ、芝原さん!」
「き、危険です! 更に強力な”
「大丈夫。わっちに任せんさい!」
そう言って、鍬を構えて正面から突っ込む。背後には良祐がいるため、翡翠は回り込むという手段を執ることが出来なかった。しかし、それでも時間くらいは稼ぐと覚悟を決め、相手を睨み付ける。
相手の脚が上がる。その瞬間に一気に加速して接近、鍬を振り上げる。
ガァン!
またも金属同士がぶつかり合うような音が響く。鍬と脚が接触した瞬間、このまま押し合ってもまた吹き飛ばされて二の舞となることは分かっている翡翠は、その接触面をズラして身体を回転させ、【
すると、相手の真上に位置するように空中へ身を投げ出すことに成功した。そのまま死角となる真上から鍬を叩き込もうと構え、落下と同時に一気に振り下ろす。
全長一〇メートルは優に超える巨体が、真上からの攻撃によって地面へと倒れ込む。そのまま追撃しようと考えるも、思ったよりもダメージを受けていないことに気付いた彼女は、すぐさまその蜘蛛の身体を蹴って離れ、良祐達の正面へと降り立って油断なく構える。
巨大【
「やったの?」
「駄目! 全然ダメージ入ってないっぽい」
「芝原さんでも駄目なのですか」
悔しそうに
蜘蛛は、ゆっくりとその身体を持ち上げると、翡翠目掛けて脚を突き出してきた。
その速さは、良祐が気付いた時には既に少女の目と鼻の先。注視していたはずなのに反応が遅れる。
「くっ!」
「「芝原さんっ!」」
蜘蛛の脚と鍬の柄が接触した際に
良祐と友希道が翡翠の安否を心配するも、前に佇む巨大な蜘蛛の化け物から目が離せない。友希道には【
≪狙いは良祐、いや、その中のワシか≫
「え? それ、どういう……」
≪いや待て、何だこの“
「え?」
その声に導かれるように後ろを振り向く。そこには、全身ボロボロになりながらも良祐に笑顔を向けてくれる翡翠の姿があった。しかし、注目すべきはそこではなかった。何故なら、翡翠の側に彼女よりも更に小さな、長い黒髪で和服を着た幼女が
「え、何? いや、誰? っていうか、え、何?」
「どうかしたのですか?」
戦いの最中だというのに、目前の
「芝原さん、その子、誰?」
「あれ? 佐藤君見えるの?」
見えると答えようとした時、脳内で例の男性の声が≪くくく≫と笑っていることに気付いた良祐は
≪悪いな。急に
「え、それ大丈夫なの?」
≪むしろ勝機が見えたのじゃ! お主よ! あの娘と一緒に鍬を持て!≫
「どういう……」
≪問答は後じゃ! 時間がない! 今すぐじゃ!≫
「っ! 分かった!」
「えっ? あっ、佐藤さん!」
声に従って、疲労も忘れて駆け出す良祐。それに独り言を言っていたと思ったら突然走り出した彼に
そんな彼等の動きを敵が許すはずもなく、すぐに追い付いて攻撃を仕掛けようとした。しかし、走り出していたのは彼等だけではなかった。同じく地を蹴りすかさず距離を詰めた翡翠が、鍬を振るって
出来た
「え? 何?」
突然の良祐の行動に驚く翡翠だが、すぐに別の驚きへと変わる。
「何これ?
≪む、これはもしや……≫
≪
そこに良祐の脳内に響く男性とは別の、幼い声が混じった。そのことに疑問を挟もうとした次の瞬間、鍬が光に包まれた。それと同時に柄を覆っていた残りのお
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