第17話 独白

「え、…………は?」


 理解できずにそんな呟きを漏らす俺。今まで信じてきたものが、一気に崩れ去るような。


 女装趣味だとか、そういうのも一瞬頭をよぎるが、それらの全てを俺の本能が否定する。


 お前は一体、何を持って男としていた? そう、もう1人の俺が問いかけている。


 いや、待て。一回落ち着け。


 パチモンセンター、略してパチセンに行った時、友達の買い物を待つのに暇で、ぬいぐるみの値札をパチパチデコピンしていたらスタッフに言われただろう。「壊れますので落ち着いてください」と。……あの時は本当すみません……手癖がマジで悪いんです……カードゲームなんて友達に借りた時にしかやらないのに手札常にシャッフルしていないとソワソワするし、シャーペン回してないとソワソワしちゃうんですよ…………いやでも「落ち着いてください」は違くない? 俺、野生動物か何か?


 何の話してたんだっけ。パチセンの話? いや、絶対それじゃない。


 あ、そうだ。宇海の性別の話だ。


 俺は一体、コイツの何を見てコイツを男だと判断した?


 ……そう、確か大学入ってサークルに勧誘された時の飯か。あの時に、ノリについていけなかった俺の近くに来たのがアイツなんだよな。その時にめちゃめちゃ肉を食べててそれで男だと思ったのか。


 ……男要素それだけ?


 対して女要素は容姿、仕草、雰囲気、声、その他諸々。


 やはり宇海は女の子なんだろうか。


 ブラつけてるし胸も一応だが、膨らみは見えている。隠せよ。


 え〜、マジ?


 衝撃的すぎて感情が追いついていない。


 いっそのこと本人に聞いてみようか。……いや、宇海が隠しているってことは何か理由があるのだろう。俺から聞くのは野暮か。宇海が話したくなったら話せばいい。


 そう決めて、俺はつまらない映画に目を戻した。


♢


 身体に何か重さを感じて起き上がると、陸が私の肩にもたれかかって寝ていた。映画はもう終わっている。


「もーっ、重いよ〜」


 そう言いながら陸の頭を私の肩から太ももの方に下ろす。膝枕だ。


 そのまま寝続ける陸の髪を手で梳いていると、髪で隠されていた、額の引っ掻き傷が目に入った。ただの傷じゃない。私のせいで陸についてしまった傷だ。


「残っちゃったんだ……この傷」


 私と陸が幼稚園の年長さんだった頃、お散歩か何かで外に行った時、犬に飛びかかられそうだった私を陸が守ってくれた。そこで陸が犬に引っ掻かれてできた傷。


「あの時かな〜。完全に好きになっちゃったの。陸はきっと覚えてないよね」


 前々から気になってはいたのだ。


 周りに馴染めないでいた私のそばで絵本を読んでいたり、たまにおままごとをしてくれたり、優しくしてくれたから。


 知ってる? あれ以来私は、ずっと陸を好きなままなんだよ?


 小学校に上がって、中学校に進学して、高校に入学してもそれは変わらなかった。


 同じ大学に入れて、飛び上がりそうなほど喜んだんだよ?


「俺は顔じゃ勝負できない、って生まれた時から悟ってる」とか言ってるけど、顔整ってるの自覚してる?


「…………大好きだよ、陸」


 そう言いながら頭を撫でていると、陸がピクリと動いた。


「ん…………んぁ」

「あ、起きた」

「宇海……? …………宇海!?」


 そう言いながらギュンッと起きがって私から離れる陸。顔を若干赤くして私から目を逸らしている。え、聞こえてた? いや、寝てたよね。


 じゃあなんで……あれ? もしかして…………陸、気づいてる?



【あとがき】


 初めてまともにラブコメ書いたかもしれない。

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