第15話 友人
陸くんが宇海さんの隣に引っ越してからおよそ1週間が経つ。
その間私は、何もできずにいた。
「はぁ、今頃は陸くんとカップル限定のパンケーキを仲睦まじく食べている予定だったのに」
思わず心の声が漏れると、向かいの席にいた人物がチッと舌打ちをする。
「ボクに言われても困るな。ボクだって今頃、陸と徹夜でおうち映画鑑賞をして
ったんだ」
目の前にいる産業廃棄物がそう、憎々しげに話す。
そう、私たちはこの1週間、何もできずにうだうだ過ごす羽目になっていた。
「何が悲しくて産業廃棄物とカフェなんか…………」
「こっちのセリフだ」
そう言いながらブラックコーヒーのカップを持ち上げ、綺麗姿勢で飲む羽虫。あまり言いたくはないが、恐ろしいほど様になっている。やはりいいですね、かっこいい女の子は。私も憧れますけど、顔の雰囲気だったり身長から無理です。やはり天性の才能なんですかね。
私たちは今、スター・フロントという喫茶チェーン店にいる。店内はコロコロと客が変わっていき、レジ前には長蛇の列が並んでいる。ちなみに私が頼んだのは抹茶ラテ。ずっと好きだったので定番化してくれて嬉しいです。
「ねぇねぇ、君たち今暇?」
「俺たちも暇だからさ、一緒に遊ぼうよ」
抹茶ラテの美味しさを噛み締めていると、いつのまにかチャラチャラとした男の2人組が私たちの席の前にいた。…………はぁ、またですか。
「あ゛?」
「ふふっ。…………消えてください」
私たちの態度に驚いたのか、男たちはスゴスゴと下がっていく。張り合いがありませんね。ここで逆上しようものなら、それに乗っかって代金だけ支払わせようかと思ったんですが。
「見事なお手前です。あなたの睨みって本当に怖いですよね」
「まぁ自覚はしている。だが、笑顔で暴言吐かれる方が怖くないか?」
「私は顔に迫力がないので。ああいうやり方をしないとなかなか引き下がらないんですよ」
「お互い苦労が絶えないな」
「ですね。本当、気持ち悪いです」
羽虫も顔はいいですもんね。たくさんナンパをされてきたのでしょう。
「この後どうする?」
「帰りますよ。何が悲しくてあなたと一緒にいないといけないんですか?」
「同感だな。ただ、私はこれからぺンギンを見にいくが」
「ペン…………ギン?」
「パパの知り合いが新しい水族館をオープンするそうでな。チケットを2枚貰った。1人で2回行こうと思っていたのだが…………おや? どうやらお前はぺンギンが好きなようだな?」
ニヤニヤして、私の方にチケットをヒラヒラ振りながらそう言う羽虫。この羽虫
下げさせたいのでしょうか。確かにぺンギンさんは好きですがこの羽虫に頭を下げるくらいなら別に行かなくても…………
「お願いします! 1枚分けてください!」
はっ!?
頭では分かっていたのに身体が勝手に動いてしまいました。恐ろしい…………これがぺンギンさんの魔力!?
「クククッ、そうか。ボクに頭を下げてまで行きたいんだな?」
「…………あなたって父親のことパパって言うんですね」
あまりにもイラッとしたので、クリティカルでダメージのありそうなことを言ってみる。
「ほぅ? 立場を分かっていないようだな」
「くっ…………」
私が何も言えないことに満足したのか、チケットを手渡ししてくる。
「もしかしてですけど、これって遠回し遊びの誘いですか? 1人で行くのが寂しいから私を誘いたいけど、誘い方がわかんないからこういうやり方をした、とかそういうのじゃないですよね?」
「そ、そそそんなわけないだろう! お前が好きと聞いたから、慈善活動でだな!」
まさかの図星でしたか。
まぁ、遊びに誘われるのは嬉しいですけど調子狂いますね。
「ペンギンさんを見にいくなら腹ごしらえをしないとですね。…………このドーナツ、美味しそう」
「あっ、それはボクが目をつけていたやつだぞ!」
「残念、早い者勝ちですっ」
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