第12話 三つ巴

「ということがありまして…………」

「それは陸さんが悪いですよ」


 俺が分かってもらおうと事情を説明すると、メイドさんはプンプンと怒る。怒られてしまった……。


「む……陸くんに怒るだなんて…………というかそもそも、なんでメイドさんがいるんですか?」

「俺も凛も掃除ができないから、家事代行を頼もうとしたんだけど……そしたら凛が『メイドさんだ。メイド喫茶には家事代行をやっているところがあるはずだ』とか言い始めてだな」


 俺がそう言うと、玲香はキッ凛を睨む。


「あなたが率先して頼んでどうするんですか!」

「だ、だって! メイドさんは女の子らしさの塊じゃないか! そんなメイドさんを見れば女の子らしさの修行になるかも、と思って!」


 そう力説する凛。ポッケを見ると、メモ帳と筆記用具が顔を出していた。メモ取ってたのか。


「あなたの女子力アップなんか心底どうでもいいです」

「ひどい!」

「そんなことより、陸くんがメイドに靡いてしまう方がもっと重大でしょう! まったく、なんで陸くんの周りにはこうも可愛い子ばかり…………ん? あなた……」


 ため息をついていた玲香がいきなりジッとメイドさんを見つめる。その視線に耐えられなかったのか、メイドさんはフイッと玲香から視線を逸らした。


「やはりそう思うか?」


 凛が玲香に何かを問いかけると、玲香はコクリと頷いた。何の話だろう。


「すみません、メイドさん。少々お話ししましょうか」


 そう、満面の笑みを浮かべて言う玲香に、メイドさんはひっ、と声を漏らす。分かる、わかるぞぉ。玲香の満面の笑みってすっごい怖いんだよなぁ。俺も、あれを浮かべられたら玲香の頼みを断れる気がしない。それほどまでに有無を言わせない力がある。


 付き合っていた頃、俺がアレを使われたのは、俺の部屋にエッチな本を隠していたことがバレた時だ。あのプレッシャーに耐えられなかった俺は正直に差し出してしまった。当然捨てられた。


 そんな昔の悲しい出来事を思い出していると、いつの間にか玲香と凛とメイドさんが部屋の隅に行って何かを話していた。


 隅っこにいる上にコソコソと話しているから内容は聞き取れないな。


「これはこれは宇海さん。また随分とかわいらしい格好をされていますね」

「いっ、いえ、誰のことでしょう? ……私、そんな人知りませんけど」

「隠さなくていいぞ。分かっていないのは陸だけだ」

「……うぅ」

「性別を隠している理由をお聞きしても?」

「色々と事情があって…………勘違いが重なった結果というか……」

「「勘違い?」」

「大学に入って陸と会ったのが新歓コンパで……その後二次会で焼肉に行ったんだけど…………」

「「あぁ、なるほど」」

「なんでこれでわかったの!?」


 ん? なんかすっごい宇海みたいな声がしたな。やっぱあのメイドさん、字海の姉とかそんなところなんじゃなかろうか。間違いなく親戚ではあるな。まぁ、そんなことは置いといて玲香の忘れ物でも見つけておくか。


「おそらくですが、お肉をたくさん食べたのでは?」

「そんなとこだろう。陸は『お肉を好きなのは男子。パフェが好きなら女子』みたいに思う傾向があるからな」

「当たってるけど考え方おかしくない?」

「今に始まったことじゃない」

「えぇ、陸くんは時々頭おかしくなりますから」

「2人とも言い方キツくない?」

「気のせいだ」

「気のせいです……あなたも陸くんが好きなんですよね?」

「ふぇっ!? そっ、そんなの……」

「違うならボクが貰っていくぞ」

「ち、違くない! ……大好き」

「ふむ…………これは弱りました。羽虫だけなら楽勝だと思っていましたが、宇海さんは強敵ですね」

「あ゛?」

「ふふっ、何やら羽音がうるさいようで」

「ふ、2人とも、喧嘩はダメだよ?」


 綺麗になった部屋の中を探してみるが、俺や凛の私物ばかりで玲香の忘れ物が見つからない。


「なぁ、玲香〜」

「はい? どうしました?」

「玲香の忘れ物って何?」

「あ、探していてくれたんですか? ありがとうございます。でもごめんなさい。言い方が悪かったです」

「どゆこと?」

「忘れ物と言いますか、ここに来た目的を果たさぬまま帰ってしまったのでそれをしに戻ってきたのです」

「……つまり?」


 俺が先を急かすと、玲香はみんなの顔を順繰り順繰り見ながらこう宣言する。


「私は、羽虫と陸くんの同棲解消をしたいのです」



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