第11話 不法侵入
「おまたせしました! 綺麗になりま…………って何してるんですか!?」
部屋の向こうからそう、驚きの声をあげてくるメイドさん。
それも当然だろう。
2人の美女(仁王立ち)に挟まれた俺が、正座をさせられ、しかも足の上に辞書を積まれているのだから。足すごい痛い。辞書重すぎん?
「…………そろそろ許しては頂けないでしょうか?」
「ダメだ」「ダメに決まっているでしょう」
「あの〜…………何があったんでしょうか?」
遠慮がちに声をかけてくるメイドさん。
こんな大惨事になった原因は、15分前に遡る。
♢
「陸。暑くなったね」
ソファに座る俺にべったりくっつきながら言う凛。
「んぁ〜…………そう思うなら俺から離れろ。俺も暑いんだよ」
「それは無理な相談だ。あぁ〜、暑い暑い」
そう言いながら服を脱ごうとしてくる。それ脱いだらほぼ半裸になるだろ。羞恥心ないの? という言葉を飲み込んで、近くにあった冷やしまくったりんごジュースの入ったグラスを持ち上げ、結露の水を凛の背中にこっそりと落とす。
「ひあっ!?」
「ぷっ…………くくっ…………」
想像以上に可愛い声を出してきたことに耐えきれず笑ってしまう。
凛は顔を赤くさせながらキッと俺を睨みつける。
「陸。悪ふざけが過ぎるな」
「暑かったんだろ丁度いいじゃん。可愛かったぞ、凛ちゃん」
「…………ほぅ?」
スゥッと顔から表情を消す凛。あ、ヤバい。流石にからかいすぎた。
「ちょ、1回落ち着け? 俺が悪かった。ほら、このりんごジュースあげるからこれで許して」
「それで丸めこめるのは陸だけだ」
「青森県産ふじりんごを使用したストレート果汁100%りんごジュースだぞ!? これ以上何を望む!?」
「そのりんごジュースの美味さは分からないが一度、どっちが上か分からせなければいけないようだ」
「分からせて喜ばれるのは可愛い女の子が相手の時だけだぞ! 対象を間違えている!」
「安心しろ。喜ぶのはボクだ」
ジリジリとにじり寄ってくる凛。
ただでさえゼロ距難だったのに、それ以上に近づこうとしてくる凛。無下限術式の使い手ですか?
ソファから飛び退き、距離を取ろうとする俺だったが、すぐに凛に距離を詰められてしまう。
仰向けに倒れる俺に、 凛が舌舐めずりをしながら覆い被さってくる。
「おいおい。さっきまでの威勢はどうした? 怯える子猫のようだぞ?」
「わ、悪かったと思ってるにゃぁん。許してほしいにゃん!」
自分でやりながら思ったが、クソキモかった。おかしい、可愛くやったつもりだったんだが。
…………いやまぁ、これで離れてくれれば嬉しいんだが。
「そんな可愛い声で鳴いて…………襲ってほしいのか?」
ダメだった!
よくわからないが、凛にはツボだったらしい。一回病院行ったほうがいいと思う。
だんだんと凛の顔が近づいてきて、俺がぎゅっと目を瞑った時だった。
「すみません、忘れ物を…………って何してるんですか!?」
突然部屋に現れた玲香が、俺たちを見ながら悲鳴を上げる。あれ、こっちも無下限術式の使い手なの? うん百年に一人が同じ時代に2人いちゃうよ?
急に現れた玲香に、凛も驚いたようで目を見開く。
その隙に俺は凛の下から逃げ出した。
「不法侵入だとか色々言いたいことはあるが…………どうやって入ってきた?」
そう凛が聞くと、玲香はえっへんと胸を張る。
「マスターキーを作りました!」
「どうやって!?」
大声をあげて驚く凛だったが、俺はこの程度じゃ驚かない。
まぁ、玲香だもんな。ベランダの柵にロープをくくりつけておいて、それを登ってくるとかじゃなくてよかった。玲香ならやりかねない。
「ま、……マスターキーって素人でも作れるものだったのか?」
「ふふふ、秘密です」
「そうなのか……いや待て。例え作れたとしてもそれは立派な犯罪ではないか!?」
ハッと何かを閃いたように言う凛だったが、俺のアバートを勝手に解約したのは誰なのか、もう一度思い出してほしい。あれ? でも、解約したのは俺の親だから世間の目から見れば凛は何も悪くはないのか? え、そんなことある?
「違います! そっちこそ、半強制的に陸くんと同棲して……それは誘拐ですよ!」
凛の問いかけに強く否定する玲香。ストーカー+窃盗未遂とどっちが重い罪なのか考えてみてほしい。
ピースカギャースカやり合う2人を、遠目で見ながらそっとため息を吐く。
休日くらい休もうぜ?
後、俺の朝ごはんのうどんを勝手に食べたのどっち?
この2人に比べて、今部屋を掃除してくれているあのメイドさんは素晴らしかったよなぁ。お淑やかだし、可愛いし、理想の女の子、って感じがする。
「はぁ、メイドさんに癒されたい」
俺の口からポロッと漏れてしまった本音を2人が聞き逃すはずもなく……
「おい陸。今の、どういう意味だ?」
「陸くん、今なんと?」
「お待たせしました! 綺麗になりま…………って何してるんですか!?」
そうして、今に至る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます