第3話 元カノ②
今日は二限からの授業だったので、玲香を家まで送った後、俺はそのまま大学に向かった。
「あ、陸!」
構内に入ると、俺を見ながら大きな声をあげ、手をブンブン振り回している人物がいた。宇海である。今日も男とは思えない可愛さを振り撒いているが、男である。
「おはよ、陸!」
「はよ」
「昨日はすぐに帰っちゃったでしょ! 僕、知ってるんだからね!」
「あぁ、ごめんな。今度飲み奢るから許して」
「ほんと!? 2人っきりがいい!」
「いいけど」
なんだろう、男に2人っきりがいいと言われてもときめかないはずなのだが、コイツの場合異様に胸が高鳴る。一回病院で診断受けてきたほうがいいかな。
「今日はどう?」
「あ〜、特に用事もねぇしいいよ」
「やった〜」
満面の笑みを浮かべながら鼻唄混じりで歩く宇海を見て俺も思わず笑みが溢れる。
「そういえば、昨日いた美人のお姉さんって陸の知り合いだったの? あの後いなくなっていたんだけど」
「アイツが元カノ」
「へぇ〜、そうな…………え!? 本当に!?」
「嘘つく理由ないだろ」
「え、え〜? 陸、無愛想なのに?」
「本当だよなぁ」
「でも陸はいい奴だから、分かる人には分かるんだろうね」
「そうか? 今日も朝から駅で並んで登校する高校生カップルを呪ってきたぞ」
「…………前言撤回」
講堂に入り、一番後ろの席へ。
話を聞く気のない俺はパソコンを出してWi-Fiに接続すると、ゲームを始めたが、すぐさま宇海に電源をブチ切られた。
♢
居酒屋に入ると、一気に湿度の高い空気が押し寄せてきた。
宇海と2人で席につき、メニュー表を手に取る。
「あぁ〜、 今日も疲れたなぁ」
「ゲームしかしてなかったじゃん。陸は生ビールでいい?」
「うん」
「何にしよっかな〜。昨日お酒飲んじゃったし今日はノンアルコールビールかな」
謎に健康志向の宇海はそのまま店員さんを呼ぶと、注文を始める。俺の財布から出るせいか、遠慮なく頼んでいっているが、俺も丁度ガッツリ食べたい気分だったのでよしとする。
注文を終えると、音速で運ばれてくる飲み物に口をつけながら宇海が俺の方に身を寄せてきた。
「ねぇねぇ、陸の元カノの話聞きたい!」
「聞いても面白いもんじゃねぇぞ」
「肴だよ肴!」
人の元カノを酒の肴にするとはなかなかのクズっぷりな気がするが、まぁそれもそうか。俺にあんな美人な元カノがいたって分かったら聞きたくなるよな。どんな弱み握ってたの、とか。
「どんな話がいい? リンチの話はグロいから無しな。メシが不味くなる」
「そんなに言われると逆に気になってくる…………う〜ん、じゃあ馴れ初め」
「ん〜…………中2上がった時に席が隣だったんだよな。それで自然と話すようになって…………2ヶ月くらいしたら告白された」
「されたの!? あんな綺麗な子に!?」
「そうなるよな。俺も罰ゲームかなんかだと思ったもん」
「それで陸はなんて?」
「普通にオッケーした」
「罰ゲームだと思ったのに!?」
「いやまぁもし本当なら罰ゲームだと思って接するのは失礼になるだろ? 罰ゲームでも傷つくの俺だけで済むし。なら真面目に答えた方がいいじゃん」
「陸ってそういうところ素直だよね。普段は捻くれてるのに。そこじゃない? 惚れられたの」
「だとしたらチョロすぎないか?」
「そうかなぁ…………女の子はそういうとこ目につくと思うけど」
男なのに全女性の代弁をする宇海だが、コイツが言うと妙に説得力があるんだよな。やっぱ可愛いからか。
そんなことを話していると、料理が運ばれてきたのでそれらをつまみながら酒を飲む。
付き合っていた頃の話などをしていると、唐突に宇海のスマホがブブ、っと震えた。
「あ、ごめん。電話だ」
立ち上がって外に出ていく宇海を見送りながらぼんやりと考える。やっぱ楽しかったんだよなぁ、付き合ってた頃。ただ、それは高校の時の彼女にも言える話だ。
「最低だよなぁ…………俺」
だんだんと落ち込んでいきズーンとした気分になっていると、コツコツと誰かが歩いてくる気配がした。宇海か。電話で出て行ったにしては索外早かったな。大方、バイトのシフト変わってくれとかそんなとこだろう。
「意外と早かったな、う…………み?」
振り返ると、宇海と、その後ろにめちゃめちゃカッコいい女の子がいた。
「あ、あはは〜。なんか、外で会っちゃった。…………陸に会わせろ、って」
バツが悪そうに頭をかきながら俺の方を見てくる宇海。
俺が反応できずにいると、その女は突然しゃがみ込んで、俺の手の甲にキスをしてきた。
「すまない、陸。遅くなったが迎えに来たよ」
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