第104話 殺意の火


 父親と双子の弟への宣戦布告を済ませて、シュバルツ達拠点にしている琥珀宮へと戻ってきた。

 四人の上級妃達がそれぞれの部屋に戻っていく。クレスタやシンラ、ヤシュも万が一の事態を防ぐために、琥珀宮に泊まることになっている。

 シュバルツが間借りしている部屋に戻ると、すでに部屋には先客がいて出迎えてくれた。


「来てたのか、クロハ」


「来てるわよお……いよいよ、やらかしちゃったわねえ」


 部屋で待ち構えていたのは『夜啼鳥』のクロハだった。

 東方の民族衣装である『キモノ』という服を着たクロハが、ニヤニヤと悪戯っぽく笑いかけてくる。

 どうやら、クロハはすでに王宮での騒動について知っているようだ。


「耳が早いな。どこで聞き耳立ててやがった?」


「どこにでもいるわよ。厄介な女に愛されたものねえ」


「自分で言うなよ……」


 クロハがシュバルツの後ろから上着を脱がせてくれる。

 そのままベッドに座ると、当たり前のように押し倒してきた。


「おいおい、いきなりだな」


「ねえ、貴方。本当にヴァイス王子に勝てると思ってる?」


 シュバルツの身体に馬乗りになって、意地悪く問いかけてくる。


「五年前は成すすべもなく負けてしまったのに。何もできずに泣き寝入りして、王宮から逃げ出してしまったのに……そんな負け犬の貴方が天才であるヴァイス・ウッドロウに勝てると思ってるの?」


「…………」


「貴方が望むのなら、私が彼を暗殺しても良いわよ? いくら彼が最強の魔法使いでも、毒を盛ってしまえば関係ないでしょう。私が代わりに殺してあげましょうか?」


「やめろよ。余計な世話だ」


 シュバルツは鬱陶しそうに舌打ちをする。

 強がりではなく、本気で不愉快だった。


「アイツは俺の獲物だ。さんざん手間をかけたメインディッシュを人に譲ってやる奴が何処にいるんだよ」


「……勝つつもり?」


「勝つに決まってる」


 シュバルツは断言した。

 迷うことなく、ハッキリと言い切った。


「そのための五年間であり、そのための後宮征服だ。今の俺はあいつが知っている魔力無しの失格王子じゃない。後宮の支配者シュバルツ・ウッドロウだ」


 北方の大商人であるクレスタ・ローゼンハイド。

 東方の剣鬼姫であるシンラ・レン。

 南方の竜王女であるヤシュ・ドラグーン。

 西方の聖女姫であるアンバー・イヴリーズ。


 今のシュバルツはその四人を味方につけている。

 いったい、これほど心強いことが他にあるだろうか?


「世界最高峰の美女を落とすことに比べたら、魔法が上手く使えるだけの弟を転がすなんて軽い仕事じゃねえか」


 ヴァイスを倒すよりも、ずっとずっと彼女達の方が手ごわかった。

 間違いなくそうなるだろうと、心から断言することができる。


「言ってくれるじゃない。生意気にもね」


 クロハがクスクスと笑って、シュバルツに覆いかぶさる。

 チュバチュバと音を立てて唇を吸い、舌を絡めてきた。


「貴方と身体を重ねるのもこれが最後になるかもしれないわね」


「次にやるときは気を失うまで抱いてやるから、覚えていやがれ」


 思えば、クロハと出会ったのが反逆の始まりだったのかもしれない。

 彼女に出会うことがなければ、『夜啼鳥』に入ることがなければ、そこらの冒険者として人生を終えていた可能性もある。


(だが……そうはならなかった。運命は俺を王宮に呼び戻した)


 クロハと出会い、暗殺者としていくつもの命を刈り取って経験を積んで。

 王宮に戻って、四人の上級妃と邂逅を果たした。

 艱難辛苦を乗り越えて彼女達を口説き、味方につけて、ちょうどそのタイミングでヴァイスが王国に帰還してきた。


 まるで見えない力によって誘われてきたかのようだ。

 こうなることが……双子の兄弟が殺し合うことが最初から決まっていたのではないかとすら思えてしまう。


(神か天使か、あるいは悪魔か……誰の悪戯かなんて知ったことじゃないが、やるからには徹底的に殺してやる)


 シュバルツは双子の弟を……ヴァイス・ウッドロウを否定する。

 すでに賽は投げられた。後戻りする道など存在しない。


「敵は殺す。女は口説く。国は奪う……この国の全ては俺のものだ!」


 シュバルツは凶暴な笑みを顔に浮かべて、胸中に燃えたぎる殺意の炎をぶつけるかのようにクロハの身体を激しく抱いたのであった。






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