半魚人の恋

1話

 葉月達は港町に着いた。

「何か魚でも釣って食うか」

 ノインは海の家から釣り竿を借りて、釣りを始めた。

「おっ、大物だ! お前ら手伝え!」

 ロッソとシアンがノインと共に釣竿を引っ張り、釣り上げたのは、なんと!

 半身半魚の男だった。頭が魚で下半身が人だった。腰蓑を着けている。

「はあっ、半魚人⁉」

 釣り上げられた半魚人は、釣り針を自分で外し、ポーズを決めた。

「俺はマーマン! 名前はミルトン!」

 マーメイドに対してのマーマンだ。

「人間の言葉を喋れるのか」

「当たり前だ」

「人魚の肉を食べれば不老不死になれると聞いたことがあるが、それは本当か?」

「し、知らねえ! 俺なんか食っても美味しくねえぞ!」

 ミルトンは大慌てで首を振る。

「ちっ、やっぱり迷信か」

「そうとも限らないわよ」

 海水浴を楽しんでいた葉月とモモちゃんが戻って来た。

「わ~、人魚じゃなくて半魚人? 本当にいるんだあ!」

「葉月のいる世界にも八百比丘尼伝説があるでしょう。こっちの世界でも似たようなものがあるのよ」

「ヤオビクニ?」

「人魚の肉を食べて不老不死になったとされる女性の伝説よ」

「フローフシ?」

「ずっと生きていられることよ」

「すっげー!」

「で、どうなんだ。こいつを食えば俺も不老不死か?」

「さあ、分からないわ」

「物は試しだ。食ってみるか」

「ひいいいっ! 俺にはまだ心残りが~~~」

「冗談だよ」

「目が本気だったぞ」

「ねえ、さっさ言ってた心残りって何?」

「あっ、それは……」

 ミルトンは急に照れながら口ごもる。

「どうしたの?」

「お、俺には好きな人がいるんだ」

「へえ」

「その子は、よくあの岩の上で歌ってるんだ。その歌声に惚れたんだ。一度でいい、俺の気持ちを伝えたい!」

「ねえ、ミルトンさんの恋を応援してあげようよ!」

「いいのか?」

「仕方ねえ、どうせ暇だし手伝ってやるか」

「ありがとう」

「で、どうすんだ? その姿のままじゃあ怖がられて終わりだぞ」

「変身呪文があったよね。それ使おう!」

「良いわよ」

 葉月は呪文の書を出して、呪文を唱えた。

「彼の望む姿に変われ。神の名の元に我は命ず」

 半魚人が金髪碧眼のイケメンに変わった。

「よし! これで、あの子のハートをゲットだよ!」

「いや、そこまではしなくていいんだ。歌を聞かせてくれてありがとうって伝えるだけで」

「いいの?」

「ああ」


 夕暮れ時。

 葉月達は物陰から少女が来るのを待っていた。

「あの子?」

「ああ、あの子だ」

 少女は歌う、綺麗な声だ。

「頑張って、ミルトンさん」

 葉月はミルトンを押す。

「あっ、あの!」

「何ですか?」

 少女が振り向く。声に合った可愛らしい顔をしている。

「君の歌を聞いて毎日元気をもらっていたんだ。ありがとう!」

「え、聞かれてたなんて!」

「こっそり聞いてて、ごめん。でも素敵な歌声だよ」

「あ、ありがとう」

 ミルトンと少女は微笑ましい会話を続けている。

「良かったねえ、ミルトンさん」

「でも、これから先どうすんだ? 変身魔法って持続すんのか?」

「そこまで持続はしないわよ。その内解けるわ」

「ミルトンさん、ちょっと」

 葉月が物陰からミルトンにサインを送る。

「あ、ちょっと待ってて」

 ミルトンが少女との会話を切り上げ、葉月達の元へやって来た。

「何ですか?」

「ミルトンさん、このままじゃ魔法解けるって」

「大丈夫だ。彼女とは別れる」

「まだ付き合ってもねえだろうが」

「私達は所詮、人間と化け物、相容れない存在なのだ」

「で、別れるつったってどうすんだ? 突然さよならするのか?」

「ああ、そうする」

「何か悲しいな」

 ロッソが寂しそうに言った。

「仕方がないのさ。彼女を待たせても悪い。……行ってくる」

 ミルトンは少女の所へ戻って会話を続ける。

「俺、遠くに引っ越さないといけないんだ。だから、もう君とは会えない。せっかく話せるようになって良かったけど、これでさよならだ」

「そんな……」

「じゃあ、さよなら」

「待って! 手紙! 手紙書くから!」

「手紙?」

「うん」

「だったらボトルメールを送っておくれ。この海岸からなら、きっと届くから」

「そう、なの?」

「ああ、そうさ。返事も書くよ」

 その後もミルトンと少女の文通は続いていったのであった。

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