幕間
私には忘れられない人がいる。
私はその人を「先生」と呼んでいた。
妻と子を持った今でも先生への気持ちは変わらない。
彼女は形あるものは何も残していかなかった。写真の一枚もなかったが、彼女の美しさは私の脳裏に焼き付いている。
ある日、家族旅行で京都の嵐山に桜を見に行った。
さすが桜の季節の京都、周りは人で溢れていた。
露店が並んでいる通りを歩いている時だった。向かいの道路から歩いてくる集団の中の一人を見て、思わず目を疑った。
先生が、あの頃と変わらない姿で歩いていたのだ。
「ごめん、仕事先に伝達しないといけないこと思い出したから、先に公園行ってて。あとでまた連絡するから」
私は咄嗟に嘘を吐き、すぐに先生の後を追った。
「先生!」
振り返らなかったので、今度は彼女の名前を呼んだ。
「モモ子先生!」
先生は振り返って、一瞬驚いたようだが、軽く微笑んだ。
そして、何も言わずに人混みの中に戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます