3話
予告状に示された日時になった。
「可愛いは正義! 怪盗エンジェルただいま参上! って、あれれ? 警備は?」
いつもは、ずらっと並んでいる警備がいない。宿敵のコイン警部でさえいない。
「ふっふっふっ、待っていたよ、怪盗エンジェル!」
エメラルドの首飾りの展示ケースの前に、葉月が仁王立ちで待っていた。
葉月の顔を見たエンジェルが一瞬、変な表情をしたが、葉月は続ける。
「これで逃げる時に警備に紛れることは出来ないよ」
「ふうん。でも、あなた一人でどうする気? エメラルドの首飾りを守り切れるの?」
「大丈夫! 私は天使だから!」
エンジェルがエメラルドの首飾り目掛けて滑空する。
「開け!」
エンジェルが呪文を唱えると、展示ケースに丸く穴が開いた。
「ダメーーーー!」
葉月が両手で穴を塞いでガードする。
エンジェルが滑空を途中で止める。
「どきなさい!」
エンジェルが葉月を平手でぶつ。
葉月がふっとんだ隙にエンジェルはエメラルドの首飾りを奪う。
「ダメッ」
葉月がエンジェルの足元を掴み引きずる。
エンジェルはバランスを崩し、前のめりに倒れる。
「ちょ、何すんのよ!」
葉月がエンジェルを押し倒す形になった。
エンジェルの手にあるエメラルドの首飾りを掴む。両者、離さない。
葉月はもう片方の手で、エンジェルの仮面を剥がす。
「え……」
エンジェルの顔は葉月に瓜二つであった。
「何で同じ顔なのよ……」
葉月とエンジェルが固まっていると、モモちゃん達がやって来た。
「葉月!」
葉月とエンジェルの顔を見たロッソが叫ぶ。
「お、同じ顔だ!」
5人がかりでエンジェルを捕まえ、逃げられないように縄で縛る。
「何で葉月とそっくりなんだ?」
「ド、ドッペルゲンガー?」
「少し違うわね。……一つ、考えられるとすれば―――」
モモちゃんが神妙な顔をして言う。
「この世界の葉月」
「この世界の私は怪盗エンジェルってこと?」
「そうよ。パラレルワールドって知ってる?」
「うん」
状況を把握した葉月とは違い、ロッソとシアンの頭には?が浮かんでいた。
「葉月は元々、この世界の住人じゃないでしょ。この世界に元々いた葉月と同じ顔の人物が怪盗エンジェルってこと。パラレルワールドってのは、この世界とは別の世界。例えば、今日の昼ご飯、おにぎりを食べたロッソの世界と、サンドウィッチを選択した世界で、分かれるのよ」
「な、何となく分かった」
「で、私をどうするのよ」
話を黙って聞いていたエンジェルが口を開く。
「どうって、警察に渡すけど」
「その前に、何でこんなことをしたのか、怪盗なんてやってるのか聞きたいな」
葉月は同じ顔のよしみか同情的だ。
「私には病気のお母さんと小さい兄妹がいて、家族を養うために、闇ルートで盗んだ物を売って、手っ取り早く稼げる怪盗をやってるのよ」
「もう怪盗なんて辞めない?」
「今更、辞められないわよ。警察を上手くまけた時の快感が忘れられないのよ」
「これから真っ当に働くなら見逃してあげなくもないわ」
「ふん。そんなのお断り、よっ!」
エンジェルは縄抜けの術を使って逃げ出す。
「「え~~~」」
「エンジェルは⁉」
コイン警部が心配になったのか、やって来た。
「すみません。逃げられちゃいました」
「でも、エメラルドの首飾りは無事よ」
「やはりエンジェルを捕まえるのは私しかいない!」
「……何か、もっと張り切っちゃった?」
「あの子も、いつか怪盗をやらなくてもよくなる日が来るといいのだけれど」
「うん、そうだね。また出会えるといいな! 本当はもっと話したいし!」
「そういえば、君」
「俺っすか」
「エンジェルと間違えて、すまなかったね」
「ああ、まあ分かってくれたんならいいですわ」
内心まだ怒りはあったのだが、面倒なので文句は言わないでおいた。
こうして、エンジェルとの邂逅は幕を閉じた。
果たして、次はいつ会えることやら。
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