ゾンビパニック!

1話

朝、起きると、強烈な腐乱臭がした。


 臭いの元はキッチンからだった。

「ママ、おはよう」

 テーブルに付いて一心不乱に朝ご飯を食べているママ。

「おはよう。どうしたの? そんなに、がっついちゃって」

「がああっ」

 ママが口を大きく開けて、私に襲いかかってきた。

「ママ! どうしたの⁉」

 ママの口は真っ赤だった。血で染まっていた。

 テーブルの上を見ると、血まみれのパパ、ううん、パパだったものが横たわっていた。

「ママがパパを⁉」

 そんな、有り得ない。昨日まで仲がいい家族だったじゃない。何で?

「がああっ」

「ママ! やめて!」

 私はママを何とか引き離し、キッチンを出て、外に逃げた。

 ママは追って来なかった。


 外は何だが生気のない人達がウロウロしていた。

 これは、まるで……。

「ゾンビ……」

 映画でも見ているようだった。

 私はゾンビ達の視界に入らないように歩いた。

 こんな時でも学校に行こうとしていた。


 学校まで遠回りしていたら遅刻してしまった。

 こんな非常時に遅刻とかを気にしている自分に笑ってしまう。


 勿論、学校にもゾンビは流れ込んでいて、それを避けながら自分の教室に向かう。

「おはよう」

「おはよう」

クラスメイトのマロンちゃんに挨拶をする。普通に挨拶を返してくれたことから、彼女はゾンビではない。生きている人間だ。

「何か大変なことになったね」

「ね」

「うちではね、お母さんがお父さんを食べちゃってて……、あ、あれ? おかしいな」

 目から涙が零れていた。

「辛かったね、泣いていいんだよ」

 私はマロンちゃんの胸に抱かれて、わんわん泣いた。


「他の人、来ないね」とマロンちゃんが言う。

「うん」

「きっと学校どころじゃないんだよ」

「私達、変なのかな?」

「うん、そうかも?」

「あはははは」

「うふふふふ」


 ひとしきり笑い合った後、マロンちゃんが切り出す。

「ねえ、これからどうする?」

「とりあえず生き延びないと」

「だね」

「今は丁度よく来ないけどさ、もし来たらどうする?」

「逃げる!」

「ゾンビ足遅いもんね。逃げきれそう」

「でもさ、いつかは戦わないとダメ、なのかな?」

「うん。いつかね」

「映画とかだとさ、銃とかがあるよね」

「そんなの何処で手に入れるの?」

「確か、職員室に護身用があるって聞いたよ」

「じゃあ、取りに行こうか」


 私達はゾンビがいないかを確認して、一階の職員室まで向かった。

「あった!」

 マロンちゃんが銃を見つけて、私にもくれる。

 銃を持つ手は震えたけど、戦う時は、しっかりしないと!

「これから、どうする?」

「ここで助けを待つ?」

「食べ物とか、どうしよう?」

「スーパーに行けばあると思う」

「じゃあスーパーに行こうか」


 本当は学校の時間なのに、学校には自分達以外、誰もいなくて、そこも抜け出して行くのは何だか不思議な気分だった。


 とりあえず昼ご飯を見繕ってレジに向かう。

「お金なんか置いても意味ないんじゃない?」

「た、確かに、そうだね」

 私は置いたお金を回収した。

 スーパーにも誰もいない。不思議とゾンビは中に入って来ない。

 こう生存者に出会わないと不安でもあるが、マロンちゃんがいてくれるのは心強かった。


 二人で、公園で昼ご飯を食べようということになった。

 ゾンビを避けながら食べるランチ。

 世界は殺伐としているのに、私達の周りだけは穏やかな時間が流れているように思えた。


 そういう日々が続くと、信じていた。

 

 マロンちゃんの死角からゾンビが飛び出して来た。

「あっ、マロンちゃん!」

 私の叫びも虚しく、マロンちゃんは首を噛まれて絶命した。

「あ、あ、マロンちゃんっ……」

 ゾンビになったマロンちゃんが起き上がる。

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