第122話 二つの距離
花火が終わり、俺たち以外の観客はこの場を離れ帰宅していった。
俺の告白の行方を見守り応援してくれていた観客たちが帰り際に「おめでとう、末長くお幸せに」と祝福の声をかけてくれたのは、自分の成長を認められたような気がして嬉しかった。
勿論今は別れるつもりなんて無いし幸せに真白と付き合い続け、ゆくゆくは結婚して死ぬまで一緒にいると思っている。
とはいえ、今後俺たちが予想していない問題が起こる可能性は十分にある。
それでも俺は俺の告白を見守ってくれて末長くお幸せにと言ってくれた人たちのためにも、亜蘭たちのためにも、琥珀さんたちのためにも、死ぬまで幸せに真白と過ごしていくつもりだ。
花火が終わり俺たち以外誰もいなくなった屋上は一気に静かになり、先ほどとは違ってどれだけ小さな声で話しても絶対に真白の耳に届くだろう。
そんな状況になり興奮状態だった気持ちが落ち着くと、自分に起こったことがあまりにも夢のようで、夢だったのか現実なのかの区別がつかなくなってしまいそうになる。
……俺、真白と付き合えたんだよな。もう真白が俺の恋人なんだよな。
冷静に現状を把握しようとしても、非現実的な話すぎてやはりすぐに真実だと受け入れるのは容易ではなかった。
「颯一君。ありがとね、私の彼氏になってくれて、私を颯一君の彼女にしてくれて」
そんな俺の心を読むかのように、真白は俺にお礼を言ってきた。
そうだよな、やっぱり真白が俺の彼女になったんだよな……。
「こっ、こちらこそっ。彼女になってくれてありがとう」
「友達から恋人になると何か変わることってあるのかな?」
唐突にそう質問された俺は、真白と付き合ってからの生活を想像してみた。
しかし、これまでの生活と大きく変化する部分は見当たらない。
「うーん……特に無いような気がするけど」
「何も変わらないのも寂しいしあだ名で呼び合って見る?」
「あだ名か……。確かにそれなら目に見えて付き合って何かが変わったってわかるしな」
「だよね。それじゃあ私は颯君って呼ぶよ」
「……じゃあ俺はまーちゃんとか?」
そう提案してみたが、真白は納得していない様子を見せる。
「うーん……。私は名前で呼ばれたいかも。呼び捨てされた方がその、嬉しいというか……。だから私だけ颯君ってあだ名で呼ぶね」
確かに俺もまーちゃんとあだ名で呼ぶよりも、真白と名前を呼びたかったので、真白がそう考えるならと俺は今後も真白を名前で呼ぶことにした。
「わかった」
「あだ名で颯君って呼ばれると心の距離が近づいた気がしない? ねっ、颯君」
「そっ、それはまあ確かに……」
真白にあだ名で呼ばれた俺は狼狽した様子を見せる。
それはあだ名を呼ばれたからというだけでは無く、もう一つ付き合うと変わるものがあると気づいたからだ。
それは体の距離である。
告白をして心の距離が近づいたというなら、体の距離も近づくだろう。というか近づきたいと思うだろう。
現に俺は今真白の唇に視線をやってしまっている。
そんな俺の視線に気付いた真白は、やめてくれと言うでもなく、視線を逸らすでもなく、スッと目を閉じた。
そんな真白の表情を見た俺は、迷うことなく真白の顔へと顔を近づけていった。
俺が迷うことなくそんな行動を取ったのが、真白を幸せにする覚悟ができたからなのか、ただ単に理性がぶっ飛んでしまったからなのかは皆さんの想像にお任せしておこう。
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