第118話 突然の接近

 亜蘭たちがいなくなり手を繋いだ俺たちは、花火が始まるまでの間言葉を交わすことはなかった。


 それはお互いこの花火大会がただ単に友達とやってきた花火大会ではなく、俺と真白にとって特別なものであることを理解しているからだ。

 そんな特別な花火大会で、亜蘭たちがいなくなり二人きりになったこの状況で、最初の一言としてどんな言葉を交わすべきなのかお互い悩んでおり無言になってしまっているのだろう。


 そしてそうこうしているうちに花火が始まり、花火に背中を押されるようにして俺は真白に話しかけた。


「始まったな。花火」


「そうだね。絶対間に合わないと思ってたから咲良たちには本当に感謝しないとね」


 絶対に真白と二人で来てやると意気込んでいた花火大会に来ることができた俺は、気持ちが昂っていることもあり変な言葉を口にしてしまわないようにしなければと当たり障りのない会話から始めることにした。 


「だな。お互い良い友達を持ったもんだ」


「颯一君、本当にありがとね。絶対来れないと思ってた花火大会に来れることになって、こうして二人で花火を見れてるのがいまだに信じられないの。目の前で花火見てるのに信じられないなんておかしいよね」


 そう言って微笑む真白は、お世辞や冗談を抜きにして花火よりも綺麗で美しいと思った。

 そんな俺の気持ちを今すぐにでも真白なら伝えたいと思ったが、花火を見ている時にそのセリフを言うのはあまりにもお決まりすぎるので、真白には伝えず心の中に留めておいた。


「俺も自分が真白を家まで迎えに行くって大胆すぎる行動したのが信じられないし同じようなもんだろ。……すまん、ちょっともう立ってるのが厳しそうかも……」


 あまりにも美しすぎる真白の微笑みに気が抜けてしまったのか、真白を一人で運んでいた時に蓄積してしまった疲労が今になって押し寄せて来て、立つことさえもままならなくなってしまった。


「颯一君⁉︎」


 力が入らず座り込もうとした俺を真白は倒れてしまうと勘違いしたようで、俺が倒れないよう支えてくれたのだが、結果的に俺に抱きつくような形となってしまった。


「あっ、あの、ごめん。ちょっと座っても良いか?」


「えっ、あっ、ごめんね⁉︎ ゆっくり降ろすね⁉︎」


 倒れそうになったのではなく座ろうとしただけだと真白が気付いてしまうと恥ずかしい想いをするかもしれないと、真白には座ろうとしただけだということは伝えなかった。

 しかし、俺が倒れようとしたのではなく座ろうとしただけと言うことに気付いた様子の真白は、慌てふためく様子を見せた。


「こっちこそごめん、ありがとう--って真白⁉︎」


 真白と並んで地面に座った俺が花火を見上げていると、抱きつくような形になってしまったことで大胆になったのか、真白が突然俺の肩に頭を寄せた来た。

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