第117話 お礼

 亜蘭たちに助けられた俺たちは、花火が始まる前に目的地である穴場のスーパーマーケットの屋上駐車場まで辿り着くことができた。

 俺が思っていた通り人はほとんどおらず、真白と二人で花火を見て想いを伝えるにはもってこいの場所だ。


「みんなありがとう。みんなが来てくれなかったらどうすることもできずさっきの場所で座り込むことになってたと思う。本当に助かった」


 俺がお礼をす言うと、最初に口を開いたのは亜蘭だ。


「これくらい気にすんな。俺たちが勝手に気になって勝手に手助けに来ただけだからな」


「それでもめちゃくちゃ助かったから。ただのお礼くらい快く受け取っといてくれ」


 そんな俺の言葉を聞いた亜蘭は徐に俺の方へと近づいてきて、耳元で呟いた。


「決めろよ相棒」


 そう言って俺から離れていきながら拳を突き上げる亜蘭に、俺はフッと息を吐き少しだけ口角を上げた。

 今まで俺のことを相棒なんて呼んだことがない亜蘭が、この場面であえて相棒と呼んだのは亜蘭自身気分が高まっていたからなのかもしれないし、面白おかしく俺を呼ぶことで緊張している俺の心を和らげようとしてくれたのかもしれない。


 亜蘭の本心はわからないが、どちらにせよ亜蘭にかけられた今の一言で俺の覚悟は完璧に決まり、小声で「任せとけ」と返答した。


「颯一君、君は素晴らしいよ。女の子のためにボロボロになっても頑張ろうとしたその姿は美しかった」


 王子に褒められても、王子が姫路にしていたことを思い出すと釈然としないが、激励してくれていることに間違いはないのだから素直に受け取っておこう。


「……ありがとな。王子みたいになれるよう頑張るよ」


「私からも……みんなありがとう。また絶対お礼するから」


 俺と同じく真白からも俺たちを助けてくれた亜蘭たちにお礼の言葉が伝えられた。

 真白を助けに行くと言って無理をしたのは俺なので、真白からのお礼には少し違和感もあるが、真白もどうしてもみんなに感謝を伝えたくなってしまったのだろう。 


「なに言ってんのシロシロ。ここまでしてあげた私たちがしてほしいお礼なんてもう決まってるじゃん」


「……?」


「頑張ってね。窪っち」


 そう言いながら三折は俺に向けてウインクをした。


 真白は気付いていないようだが、三折が俺に対して何を言いたいのかは明白だ。

 三折の言葉の意図を理解している俺は「ありがとう」とだけ返事をした。


「公陽みたいに別の女の子に告白したりしないでよね」


「そんなことしねぇよ。ここまできたんだからな」


「それじゃあ俺たちはもう行くから。最高の花火大会にしろよ!」


 そう言って俺たちは屋上から去っていく亜蘭たちに手を振った。

 そして亜蘭たちの姿が見えなくなってから、俺は自然と真白の手を握っていた。

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