第114話 次の試練

 真白をおんぶした俺は、十分程歩いたところで気付いてしまった。

 いくら体重が軽そうな真白とはいえ、もう大人に近い高校生を長時間おんぶをして歩くのは不可能に近いということに。

 

 勿論長時間真白をおんぶするのは無理かもしれないと事前に考えてはいたのだが、『それくらい気合いで乗り切れよ俺』と自分に言い聞かせていた。

 しかし、到底気合いだけで乗り切れるレベルの話ではなかった。


 子供をおんぶするのであればある程度長時間のおんぶも可能だろうが、恐らく体重四十キロ以上はあると思われる真白をおんぶして歩くのはいいとこ十分くらいが限界だった。

 そしてそれに気付いた俺は迷うことなく偶然走ってきたタクシーを捕まえ、タクシーに乗り込んで穴場へと向かっている。


 変に見栄を張って穴場に到着できず、花火を見れなくなってしまっては元も子もないからな。


「……ごめん。非力な男で」


「いや、誰だって自分の体重より少し軽い程度の人間をそう長い時間おんぶってできないだろうし謝らなくていいよ。むしろごめんね。こうやって迷惑かけるから花火大会行かないでおこうって決めてたのに……」


「さっきも言っただろ。どれだけ迷惑をかけられようが俺は真白と一緒じゃないと花火大会を楽しむことはできないし、そもそも真白と一緒じゃなかったら花火大会なんて行ってないんだよ。だから思う存分迷惑かけてくれ」


「……うん。わかった。いっぱい迷惑かけるね」


 真白は俺のことを信頼して、迷惑をかけると言ってくれた。

 その気持ちに応えられる俺でなければ、真白と恋人になることなんてできない。


 穴場に到着するまでにどんな問題がやってきたとしても、諦め悪く最後まで足掻いてやろう。


 そんなことを考えていると、突然タクシーの運転手が話しかけてきた。


「お兄ちゃんたち、付き合ってるんだろ? いいなぁ若者の恋愛ってのは。なんでかはわからんが輝いて見えるぞ」


 タクシー運転手の発言に俺たちは顔を見合わせ、自分たちが恋人に見えているという事実に恥ずかしさを覚えながらも、少しだけ笑みを溢した。


「ありがとうございます。お互い花火大会を楽しみにしてるので、それで輝いて見えたのかもしれません」


「恋人と見る花火が一番綺麗で感動して記憶に残るからなぁ。いい思い出になるといいね」


「ありがとうございます」


「おじさんはどうしても君たちに幸せになってほしいんだけどね、神ってのは試練を与えるもんなんだ」


「……?」


「花火大会を楽しみにしている君たちに私は今から非常に悪い知らせを伝えなければならない」


「……?」


「渋滞でタクシーが全く動かなくなってしまった」


「えっ、渋滞?」


 タクシー運転手の言葉を聞いて前方を確認すると、長蛇の列ができており、ピクリとも動かない状況となってしまっていた。

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