第113話 出発
「お待たせ! ごめんっ。お母さんに手伝ってもらったんだけどギプス巻いてたからスムーズに着替えられなくて……」
そう言って家から出てきた真白の姿を見た俺は思わず視線を逸らした。
浴衣姿の真白が可愛すぎたのだ。
普段見ている制服や私服姿の真白も直視するには覚悟を決めなければならないほどに可愛い。
それでも浴衣姿がその何倍も可愛く見えるのは、春にしか咲かないからこそ人気があり、人々に好まれる桜のようなものなのかもしれない。
まあ桜より真白の方がよっぽど綺麗だけど--なんて想いを言葉にして直接伝えられる自分だったらもう真白とは恋人になれているかもしれないな。
「あっ、大丈夫……。そんなに長い時間待ってる感じはしなかったから」
「……ん? 颯一君、なんか目線逸らしてない?」
「いやっ、そのっ、確かに逸らしてないとは言えないんだけど……」
「えー、せっかく浴衣着たんだからちゃんと見てよ」
そりゃ俺だってできることなら真白の浴衣姿を舐め回すようにじっくりと見たいと思う。
それをさせてくれないのは真白さん、あなたなのですよ、と心の中で呟いた。
とはいえいつまでも真白の浴衣姿を見ないわけにもいかないので、覚悟を決めた俺は真白へと視線を戻すと、真白は浴衣を俺に見せるためにその場でくるりと回ってみせた。
「どう? 可愛いでしょ?」
浴衣姿も勿論可愛すぎるが、その仕草がまた可愛すぎて、俺は再び視線を逸らした。
「なんでまた視線逸らすの? まだ感想聞いてないんだけど?」
花火大会にいけることになりテンションが上がっているからなのか、真白はいつもより大胆なことを訊いてくる。
そんな真白のテンションに乗っかり、俺も普段は言えないようなセリフを言うことにした。
「……可愛すぎて直視できない」
俺がそう言うと、真白は一気に顔を赤くして俺から視線を逸らす。
「そっ、そういうことだったか……。ありがと」
「いやっ、どういたしまして……」
「そういえばさっきお母さんにも同じこと言われたんだけどなんでなんだろ?」
「そうなのか? 口裏合わせたりしたわけじゃないし、多分お母さんもただ単に真白が可愛く見えただけなんじゃないか?」
「……なるほど」
可愛すぎて直視できない、と言ったことに関しては口裏を合わせてはいないが、真白が花火大会に来れなくなった理由を聞いたり、浴衣を出したままにしておいてもらったりと、そちらの方は口裏を合わせてはいるので、口裏を合わせていないというのは嘘になる。
でも時にはそんな嘘が必要になることだってあるのではないだろうかと思う。
琥珀さんが真白の父親が他界していることを隠していたように。
「ほらもう花火始まるから。行くぞ」
「うんっ!」
そして俺は真白を背中に乗せて、今日二人で行くはずだった穴場へと向かって歩き始めた。
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