第111話 何が何でも

「なんで颯一君がここにいるの⁉︎ みんなと花火大会を楽しんでるはずでしょ⁉︎」


 咲良たちと花火大会に行っているはずの颯一君が、なぜかはわからないが私の家の前に立っていた。

 本当であれば今頃もうすぐ始まる花火に期待を膨らませながら屋台を楽しんでいるはずなんだけど……。


 ……いや、なぜかはわからないなんてことはない。

 颯一君は花火大会に行けず一人で家にいる私を迎えにきてくれたのだろう。


「真白がいないのに花火大会を楽しめるはずがないだろ?」


 颯一君の言葉に思わず胸を弾ませてしまった自分に腹が立つ。

 花火大会に行きたいというのが私の本心ではあるが、骨折をしてギプスを巻いている私が花火大会に行ったら迷惑しかかからないのだから、颯一君の言葉を聞いて喜ぶ資格なんて無い。


「そ、そう言ってくれるのは嬉しいけど私骨折してるし、私が一緒にいたら絶対楽しめないよ! だから早く咲良たちのところに戻って! それじゃあ!」


 このまま颯一君に連れ出してもらいたいという気持ちを必死に抑え、私が行ったら迷惑がかかると自分に言い聞かせて玄関の扉を閉めようとした。

 しかし、颯一君は即座に足を入れ込み、私は扉を完全に閉め切ることに失敗した。


「そうはさせないぞ! 何が何でも連れ出してやるからな!」


「もういいの! 連れ出すも何も私骨折してるんだから出歩けないし!」


「そんなの俺がずっとおんぶすれば解決だろ! だから早く行くぞ!」


「それじゃあ颯一君が花火大会楽しめないでしょ! だから早く帰って!」


「楽しめるんだよ! 逆に俺は真白が一緒にいないと楽しめねぇ!」


 どれだけ帰るように言っても引かない颯一君の 言葉に私は扉を閉めようとする力を弱めた。


「なんで……。なんで私の気持ちをわかってくれないの……? 私はただ颯一君に花火大会を楽しんでほしくて、私が一緒だと楽しめないからって頑張って我慢してるのに……」


 私は自分なりに考えて、みんなに、颯一君に迷惑がかからないように我慢をすると決めた。

 それなのに颯一君は、私の覚悟が揺らぐような言葉ばかり投げかけてくる。


 それじゃあ私が我慢した意味が無くなっちゃうよ……。


「正直な話していいか?」


「正直な話……?」


「俺さ、一人だったら絶対に花火大会なんて行かないんだよ」


「……え?」


「花火大会って歩きづらいくらい大勢の人がくるだろ? 俺人混みって得意じゃないし一人だったら絶対に花火大会なんて行かないんだよ。そんな俺が花火大会に行きたいって思ったのはさ、真白と一緒だからなんだ」


 颯一君が花火大会に行きたかったのは、花火だったり屋台が好きだからというわけではなく、私と一緒に行くのが楽しいた思ったからだったの……?

 そうなるとギプスを巻いていて自由に歩けない私が颯一君の邪魔にならないようにと思って花火大会に行かないとしたら……。


「えっ、じゃあ私が行かないって言ったら……」


「ああ。花火大会には行ってなかっただろうな」


「えっ、でもさっき咲良から送られてきた写真には写ってたよね?」


「あれは真白が自分のせいで俺が花火大会を楽しめなかったって罪悪感を持たないようにと思って行っただけだ」


「そ、そうだったんだ」


「だからな、俺に花火大会を楽しんで欲しいと思うなら、一緒に花火大会に行ってくれ」


「本当にいいの……? 私重いよ?」


 颯一君が他花火大会を楽しめなくなるなら私は行かない方がいいと考えていたが、私が行かないと颯一君も花火大会に行かないというのなら、このまま家にいるわけには行かない。


「こういう時のために普段から鍛えて……はないけど多分大丈夫だ」


「……ふふっ。じゃあお願いしちゃおうかな」


「任せとけ。じゃあ浴衣に着替えてきてくれ。待ってるから」


 そう言われて私はリビングへに戻り、浴衣へと着替え始めた。

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