第109話 行けない理由
花火大会当日、私は自宅のリビングでスマホをいじりながら、咲良たちから送られてくる楽しそうな花火大会の写真に目を通していた。
決して花火大会に行けない私に当てつけのように写真を送ってきているわけではなく、私から咲良に花火大会の写真を送ってくれと頼んだのだ。
その写真を見れば私もみんなと同じように花火大会を楽しめると思ったから。
写真の中には颯一君も写っており、私が言った通り私ではなく咲良たちと花火大会を楽しんでいるようだったのでホッと胸を撫で下ろした。
私が花火大会に行けなくなった理由を話したら、颯一君なら自分が花火大会を楽しめるかどうかなんて二の次で、私のことを迎えに来てしまいそうだから。
私が花火大会に行けなくなったのは、足首を骨折してしまいギプスを巻くことになり、歩くのに松葉杖が必要だからだ。
数日前お母さんと一緒に部屋の掃除をしていた時、お母さんが部屋の中で足を滑らせて転倒しそうになってしまい、咄嗟にお母さんを支えに行った私はお母さんの重みを支える体勢がとれておらず、そのまま足首を捻ってしまった。
私の体重だけでなく、お母さんの体重と倒れてきた勢い分の重みが捻った足首に全て乗ってしまい、結果的に足首を骨折してしまったのだ。
無理をすればギプスを巻いているからと言って、花火大会に行けないわけではない。
松葉杖を使わないと歩けないので、人混みは避けなければならないが、本会場から少し離れた場所からであれば花火を見ることができるだろう。
それに私が骨折をして花火大会に行けなくなってしまったことに一番の責任を感じているのはお母さんだ。
お母さんに責任を感じさせないためにも、なんとかして花火大会に行きたいと考えていた。
しかし、それでは颯一君が心の底から花火大会を楽しむことはできなくなってしまう。
花火大会の醍醐味は夜空に打ち上がる大きな花火だけでなく、屋台を巡り、焼きそばを食べたり金魚をすくったりするのも醍醐味の一つだ。
それなのに人があまりいないような本会場から離れた場所で花火を見るのでは、花火大会を楽しんだことにはならないだろう。
それなら私ではなく、みんなと花火大会に行ってもらった方が颯一君も心の底から花火大会を楽しめるだろうと考え、花火大会の予定を断って家で過ごすことにしたのだ。
咲良との予定を理由も言わず断ったのも、咲良が初めて亜蘭君と一緒に行く花火大会の思い出を台無しにしないためというのと、咲良から颯一君に花火大会の予定を断った理由が伝わってしまわないようにと考えてのことだった。
咲良は口の硬い女の子ではあるが、私のために無理をしてでも花火大会に行くべきだと判断したら、骨折した話が颯一君に伝わってしまうかもしれない。
これでよかったんだよね……。
私が花火大会に行くのを我慢すれば、絶対みんなが花火大会を楽しめるんだから私は我慢してれば良いんだよね……。
みんなには現地で花火大会を楽しんでもらって、私は家でみんなが楽しそうにしている様子を写真で見せてもらって……。
それでよかったんだよね。正解の選択肢だったんだよね……。
誰にも迷惑をかけないのだから、私の選択肢は絶対に正解だったはずだ。
そうわかっているのに、絶対に正解のはずなのに、堪え切ることができず私の目には涙が浮かび始めていた。
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