第103話 別れ間際の
神社から寿子さんの家へと戻った俺たちは、荷物を琥珀さんの車に積み込み車に乗り込んだ。
そして寿子さんに最後の挨拶をするため窓を開けた。
「じゃあねおばあちゃん! 次来る時はもうちょっと卑猥な発言は抑えてよ!」
寿子さんは運転席側に立っており、真白は助手席の後ろに座っているので、真白は俺の方へと体を寄せて寿子さんにそう伝えた。
「はいはい。善処するねぇ」
「善処というか言わなければいいだけの話なんですけどね」
「まあ息をするみたいなものだからねぇ。中々難しいんだよこれが」
それだと息をしないと死んでしまうのと同じで卑猥な発言をしなければ死ぬことになってしまうんだが……。
息をするのと同じレベルで卑猥な発言をされるのは迷惑極まりないので、次来るときまでに直しておいてほしい。
--っていうか俺、また寿子さんの家にやってくるつもりでいるんだな。
なんて厚かましい奴なのだろうかと思ったが、また寿子さんの家に来るつもりになっていたのは、真白に告白をする覚悟が完璧に決まったからなのだろう。
寿子さんの家に来る前から、地元で行われる花火大会で真白に告白をするつもりだったが、まだ覚悟が決まったわけではなかった。
それが寿子さんの家に来て昔真白に会っていたことや真白の父親と交わしたセリフを思い出して覚悟が決まったのだ。
「せめて回数だけは減らしてくれると助かりますけど……。何はともあれ寿子さん、一週間本当にお世話になりました」
「こちらこそありがとねぇ。真白ちゃんが来てくれたのはもちろん嬉しいけど、颯一君が来てくれたのもすごく嬉しかったよ。また来てね」
俺が来たことを喜んでくれて『また来てね』と言ってくれているということは、寿子さんも俺のことを認めてくれたということなのだろう。
俺を認めてくれている寿子さんや琥珀さんのためにも、俺は真白との関係を前に進めなければならない。
「……ありがとうございます。また来ますね」
「それじゃあお母さん、もう行くわね」
「ああ。帰りの運転気をつけるんじゃよ。真白ちゃんだけじゃなくて人様の子も乗せてるんだから」
「分かってる。気をつけるね。それじゃあ」
そうして琥珀さんが出発しようとシートベルトを閉め、俺が窓を閉め始め車が動き出したその時、俺にしか聞こえない大きさの声で寿子さんが呟いた。
「それじゃあまたね、いっくん」
「--え?」
なぜ寿子さんがその名前を--⁉︎
そんな疑問を寿子さんにぶつける前に車は発車してしまい、車の中から寿子さんの方を見ると、寿子さんは優しく微笑んでくれたいた。
……そうか、寿子さんは俺がこの家に着いた時から俺があの写真の男の子だと気づいていたのか。
それならなぜ最初から言ってくれなかったのかとは思うが、俺が自分で気づくことに意味があると思ったのだろう。
寿子さんか……。
本当に最後まで振り回されっぱなしだったな。
最後に驚きの事実が判明したものの、その後俺たちは事故をすることもなく無事に帰宅することができた。
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