第99話 実際問題
客間に並べられた二つの布団。
これは間違いなく寿子さんによって並べられたもので、寿子さんが何を考えて布団を二つ並べたのかは考えなくても理解できた。
あの人、俺がどんな思いで我慢してるかわかってんのか……。
アニメや漫画などではよく見る展開ではあるが、まさか俺がこの展開に遭遇することになるとは思っていなかった。
とはいえこの程度の問題は、布団同士の距離を離すことですぐに解決できる。
「まあとりあえず布団同士の距離を--」
真白に布団同士の距離を離すことを提案しようとした俺は、その提案に問題があることに気付いた。
俺から布団の距離を離そうと言えば、真白と近くで寝ることを嫌だと言っている様に聞こえてしまうだろう。
そう勘違いされてしまったら真白はショックを受けて、今後俺との距離を取ろうと思ってしまうかもしれない。
自分がこの立場になってみてようやく気付いたが、アニメや漫画の登場人物たちが意図的に隣同士に並べられた布団にそのまま寝ていたのはこういう問題があったからだったのか。
「え、なんか言った?」
「い、いや、なんでも」
俺が真白と距離を離したいと思っていると思われないためには、提案ではなく質問をしなければならない。
「どうする? 俺はまあこのままでも大丈夫だけど、男の俺とこんな距離で寝るのは流石に厳しいだろうし、とりあえず布団同士の距離を離すか?」
「そうだね、普通男の人だったら流石に隣同士に布団を並べて寝るのは嫌なんだけど……。颯一君ならいいよ?」
違う、違うぞ俺、これはあくまで隣同士で寝ていいかどうかの確認であって、性行為をしていいかどうかの話をしているのではない。
真白の話し方があたかもそんな話をしているように聞こえてしまったが、そんな話は一切していない。
え、というか隣で寝ていいの?
隣で寝ることを許されてしまったら、もう布団同士の距離を離す必要がなくなってしまう。
「じゃ、じゃあこのまま寝るか」
「うんっ。そうしよっ」
そして俺は、本当にいいのだろうか、と思いながら寿子さんが用意したであろう布団に潜り込んだ。
「……なんかこうやって二人で隣同士で寝転ぶと夫婦みたいだね」
「ふ、夫婦っ--。……そうだな。確かに夫婦みたいだ」
「ねぇ、せっかくだから手握ってもいい?」
……確かにこの距離まで近づくことは中々無い。
でもせっかくってなんだよそれ、なんで俺と手を握りたいなんて思うんだよ。
「そ、そりゃ別にかまわないけど」
「じゃあ失礼してっ。……颯一君の手、あったかい」
「ま、まあ夏だし寝苦しいくらいだからな」
「こうしてると思い出すんだよね、昔あった男の子のこと」
「あの写真に写ってた男の子のことか?」
「うんっ。少ししか覚えてないんだけどね--」
そう言って真白は写真に写っていた男の子のことを語り出した。
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