第95話 駄菓子屋

『セックスは済んだかい? 近くに駄菓子屋があるからそこでお菓子でも買っておいで』


 寿子さんからそう言われた俺たちはすぐに家を出て、徒歩五分ほどで到着する場所にある駄菓子屋へと向かった。


「本当ごめん……。おばあちゃんが変なことばっか言うから嫌な気分にさせちゃってるよね」


 駄菓子屋に向かって歩く俺の横で、真白は真っ白な顔をして地面を見ながら謝罪している。

 勿論真白に非がある部分なんてないが、自分のばあちゃんが友達に対して卑猥な言葉を連発していれば申し訳なくなり謝罪せずにはいられないだろう。


「嫌な気分っていうか、まあ気まずいとは思ってるけど、寿子さんも多分本心で言ってるんじゃなくて俺が気を遣わないようにわざと卑猥な言葉を言ってるんじゃないか?」


「そうなのかなぁ……そうだといいんだけど……」


「実際寿子さんの家に着いたときは結構緊張してたんだけどその緊張も綺麗さっぱりなくなってるし」


 真白にはそう言っているが、今のは俺に対して申し訳なさを感じている真白をフォローするために言った言葉だ。

 実際のところは寿子さんが俺のために卑猥な話をしてくれているとは思っていない。


 多少は俺のために言ってくれている部分もあるのかもしれないが、寿子さん自身が元から卑猥な言葉を言うのが好きなだけなのだろう。

 中々失礼なことを考えている自覚はあるが、失礼なことをされているのだから仕方がない。


「颯一君がそう言ってくれるなら安心だけど……。お母さんにもおばあちゃんにも私からまたキツく言っておくね」


「俺は気にしてないからそこまでしてもらわなくてもいいけど……っとここか」


 寿子さんの話をしているうちに、俺と真白は目的地である駄菓子屋へと到着した。


「そうそう。おばあちゃんの家に来ると毎回来ちゃうんだよね。高校生にもなって駄菓子屋なんて恥ずかしいかなって思ったりはするんだけど」


「高校生でも駄菓子くらい買うだろ。俺も偶に行ったりするし」


「颯一君って同級生の男の子と比べて大人っぽいのになんか意外。でも同じものを好きって嬉しいね」


「--っそ、そうだな。とりあえず入るか」


 真白のあまりにも可愛すぎる発言と表情に見惚れてしまうが、直ぐに駄菓子屋の中に逃げ込むことでなんとかその場をやり過ごすことができた。

  店内に入った俺はいかにも駄菓子屋らしい古びた建物と、数人が入るのがやっとであろう店の狭さに安心感を覚える。


「ねぇ、この駄菓子屋家から近いしまたいつでも来れるからさ、お互い自分が一番好きな駄菓子を一個ずつ買って家で見せ合いっこするってどう? その駄菓子のどんな部分が魅力的かとかをプレゼンし合うの。面白そうじゃない?」


 俺としては真白の好みが知れるのは嬉しいことだし、確かに面白そうだったので真白からの提案を受け入れることにした。


「確かに面白そうだな。じゃあ制限時間は三分くらいか」


「やった。じゃあ三分以内にお互い好きな駄菓子を選んでこっそり買うってことで」


「おっけい」


 そうして俺は駄菓子屋の中をくまなく探し、自分が一番好きな駄菓子を見つけ真白に見えないように購入をした。

 この溢れ出るカップル感に、俺からは幸せオーラが滲み出ていたと思う。


 この後その駄菓子のせいで大きな問題が起こるとも知らずに。

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