第94話 花火大会と男の子
「それじゃあゆっくりしててね。私は琥珀と一緒に晩御飯の準備してくるから。セックスできるようにちょっとゆっくりご飯作るからね。お好きなようにどうぞ」
「もうおばあちゃん!」
寿子さんは相変わらずな発言をしながら琥珀さんと一緒に台所へと向かい、俺と真白は客間で二人になった。
これが真白のおばあちゃんなのでまだ問題にはならないが、仮に俺のばあちゃんが真白に同じような発言をしていたとしたらかなりの問題に発展する気がする。
寿子さんが発言する度に身構えなければならないので心労が絶えないが、逆の立場でなくて良かったと前向きに考えることにしよう。
寿子さんと琥珀さんが部屋を出て行って二人きりにはなったが、毎日のように二人きりなのだから今更緊張することは無いはずだ。
それなのに少しだけ意識してしまうのは、寿子さんの先ほどの発言が原因だろう。
「ふぅーー。ごめんねうちのおばあちゃんが……。ずっと車だったから疲れてるのに余計疲れたよね」
「琥珀さんで慣れてるから。気にしないでくれ」
「まあそれは確かにあるかも。それにしても暑いねー。おばあちゃんの家のほうがウチより暑く感じるね」
そう言いながらシャツの首元を持ってパタパタして空気を胸に送る姿を見て更に意識してしまいそうだったので、すぐに目線を逸らした。
目の前に男子がいるのだからもう少しガードは硬くしてほしいものである。
そうでなければ真白が周囲の男子から性的な目線を送られることになってしまうからな。
というかずっと車の中で寝てたのに疲れたのか? と思いはしたが、その思いはぐっと飲み込んで「そうだな」とだけ返事しておいた。
「本当に良かったの? 一週間も泊まりに来ちゃって。その間特にやることもないし暇だろうけど」
「……ああ。むしろ来れてよかったよ。その……夏休み中毎日会ってたのに一週間も会えなくなってたら寂しくて死んでたかもしれないから」
「そっ--そうなんだ……。そ、それはまあ、私もそうだったと思う。颯一君が来てくれてなかったら毎日電話してた気がする」
自分で話していてむず痒くなるような内容の話に、俺は思わず話を変えた。
「そ、そうだ。玄関に置いてあった写真に写ってた男の子、真白は覚えてるのか?」
「うん。覚えてるよ。でも名前までは覚えてなくてね。一緒におばあちゃんの家の近くでやる花火大会に行ったのはすっごく楽しかったからはっきり覚えてるんだけど」
……そういうことか。
真白が花火大会に行こうと言った時に、やたらと嬉しそうな表情を見せていたのはあの写真に写っていた男の子と一緒に行った花火大会が楽しかったからなのだろう。
当たり前ではあるが、俺以外の男と花火大会に行ったことがあるというのは何か少しモヤモヤした気持ちになる。
--って思いっきり否定しといて嫉妬してんじゃねぇかよ俺。
「子供の頃に見た花火って確かに俺も記憶にあるな」
「あ、で、でも勿論今度行く花火大会のほうが楽しみで、多分最高の思い出になるんだろうなぁと思ってるよ? そ、その、颯一君と一緒だから」
「--っ」
俺のテンションが少し下がったことに気付いたのか、真白はフォローするような発言をしてくれた。
そんな真白の言葉に赤面しながら、俺は花火大会への期待を含ませていた。
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