第91話 おばあちゃんの家
俺は琥珀さんの運転する車の後部座席に座り、ウトウトしながら車の揺れに身を任せて体を揺らしていた。
真白の母親である琥珀さんが運転している車に乗り、その後部座席に俺と真白が座っている。
これで付き合っていない、いや、結婚していないだなんて言われても説得力が無いが、まだ付き合ってすらいないのだからおかしな話である。
最初は琥珀さんの運転する車に緊張もしたが、車に揺られている間に気持ちよくなってしまい思わずウトウトしてしまっている。
とはいえ琥珀さんが運転してくれているのにウトウトしては申し訳ないし、悪印象を持たれてしまうかもしれないので、必死に右手で左腕を抓りながらなんとか意識を保っていた。
「眠かったら寝てもらってもいいのよ?」
「えっ、あ、いや、それは申し訳ないので頑張って起きてます」
ウトウトしていることに気付かれて琥珀さんは寝てもいいと言ってくれたが、その言葉を鵜呑みにして眠るわけにはいかない。
「まだ子供なんだからそんなの気にせず寝てくれていいんだからね。それにほら。颯一君の横に座ってる女の子なんかもうすっかり夢の中よ?」
「--え?」
そう言われて俺は真白の方へと視線をやる。
「颯一君……まだ満足できないの?」
真白が寝ていることに驚くよりも先に、ただ事ではない内容の寝言を聞いた俺は思わず吹き出してしまった。
真白の夢の中にまで俺が登場しているのは嬉しくもあるが、夢の中の俺は何に満足していないのだろうか。
「ふふっ。我が娘ながら中々欲求不満ね」
「な、何言ってるんですか。まだそういうことしてるとは限らないでしょ」
「あら、私は性欲だなんて一言も言ってないわよ?」
……やられた。
どうやら俺は琥珀さんの掌の上で踊らされるのがどうしようもなく得意らしい。
確かに欲求なんて性欲の他にも食欲だとか睡眠欲だとか、様々な欲求がある。
それなのに性欲だと決めつけて話してしまったのは俺のミスだ。
でも欲求不満って言葉聞いたら性欲のことだと思うだろ普通。
まあそれを分かった上で、俺をいじるためにわざとそういう言い方をしたんだろうけどさ。
「……いたいけな男子高校生をもてあそぶのはやめてください」
「えー、私の生きがい取らないでくれる?」
「そんなこと生きがいにしないでくださいよ」
「男遊びよりはいいでしょ?」
「そ、それはまあそうですけど……」
琥珀さんのブラックジョークを聞いてタジタジの俺は、気持ちを落ち着けるためにも真白の寝顔を見た。
真白の寝顔を見るのは恐らく真白がお酒に酔って俺の部屋で眠ってしまった時以来だが、あの時はまさかこんなに状況になるなんて思っていなかった。
それと同様にこの先俺と真白がどうなっていくのかも、いくら想像したところで正解にたどり着くことはないのだろう。
琥珀さんからの言葉で目が覚めてしまった俺は、そんなことを考えながら窓の外を流れる景色を眺めていた。
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