第90話 突然の誘い
突然真白の部屋に入ってきた琥珀さんを見た俺たちは、抱き着いている状態から即座にお互い距離を取った。
琥珀さんも家にいると分かっていながら油断していた俺たちも悪いが、足音も立てず部屋の前までやってきて、ノックも無しに真白の部屋の扉を開けた琥珀さんにも非はあると思う。
というかさては琥珀さん、俺と真白の様子を覗くためにわざと足音を立てないように真白の部屋にやってきて、わざとノック無しで扉を開けたのではないか?
そんな考えが頭をよぎり琥珀さんの表情を確認すると、うっすらしたり顔をしているような気がしたのは気のせいではないだろう。
「お母さん! なんで勝手に入ってくるの!? せめてノックしてから入ってくるのが常識でしょ!?」
「お母さんだってまさか部屋に入ったら娘とその男友達がよろしくやってるだなんて思わないじゃない?」
「よろしくやってない!」「よろしくやってないです!」
抱きついてはいたがよろしくやっていたわけでは無いので、俺と真白は息ピッタリで否定した。
「ふふっ。否定の言葉まで全く同じだなんて本当に仲がいいわね。お母さん的にはいつでもお義母さんになる準備はできてるし、むしろ既成事実を作ってもらってもいいんだけど?」
文脈から『お義母さん』って言葉が『お母さん』じゃなくて『お義母さん』だってわかっちゃうのやめてくれマジで。
そりゃ俺としては将来真白と結婚して琥珀さんがお義母さんとなる未来は理想ではあるが、真白にとってそれが理想かどうかはわからないし、そんなこと言われたら気を悪くしてしまうかもしれないので変なことを言うのはやめてほしい。
とはいえ娘とその男友達が自分の家の部屋の中でよろしくやって--はいないが、抱き着いているところを見ても怒らずに、こうして冗談で笑い飛ばしてくれるのは正直助かっている。
琥珀さんが娘を大切にしていないわけではないが、過保護な親なら男である俺をこうして毎日家に入れてはくれないだろうし、抱き着いているところなんて見られたら出禁になっていた可能性すらあるからな。
「大事な娘さんなんですから。既成事実を作るくらいならちゃんとプロポーズして結婚しますよ」
「プロッ--」
「ち、ちがっ……わなくはないけど……」
俺の言葉を聞いて赤面している真白を見て、今のが失言だったことを理解した。
そして即座に今の発言を撤回しようとしたが、いつかは真白にプロポーズをする日が来るのだろうと考えていたからこそ出た発言だし、プールで真白に『好き』という言葉を恋愛的な意味ではないと否定されてショックを受けたことを思い出し、途中で撤回するのをやめた。
「あらあら〜。本当に仲睦まじいわね。お母さんあらあらが止まらなくなりそうだわ」
「あらあらだけじゃなくてもう喋るのやめてもらっていいですか」
「ふふっ。じゃあ最後に一つだけ。颯一君、来週から私たち一週間おばあちゃんの家に行くんだけど、もしよかったら一緒に来ない?」
「……え? おばあちゃんの家に?」
突然の信じられないお誘いを聞いた俺は、琥珀さんに真白と抱きついていたところを見られてしまったことなんて忘れてお誘いのことについて考えていた。
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