第89話 進化した習慣

 始めて真白と過ごす夏休みは約半分が経過したが、特に大きな問題が起こることもなく順調に真白との仲を深められていると思う。

 真色と一緒に言ったプールでは、恋愛的な意味で好きと言ったわけではないと全力で否定され真白との恋を諦めかけもしたが、結局は告白とも取れるような発言が真白から飛び出し、仲が深まったイベントになったのではないかと思っている。


 そして今日は俺が真白の家にお邪魔する日となっており、真白の部屋へやってきた俺は真白から継続している習慣をしてもいいか訊かれた。


「それじゃあ今日もいい?」


「もう毎日やってることなんだからわざわざ確認してからやらなくてもいいんだぞ?」


「そうなんだけどね。普通の友達同士でやる事じゃないしいざやるとなると緊張するっていうか……」


「じゃあ今日はやめとくか?」


「や、やる! じゃないと明日まで我慢できる気がしないし」


 ちょっとだけ意地悪に訊いて、焦って返事をしてきた真白の姿があまりにも尊い。

 

「……ならもう明日からは毎日確認してからやる必要はないから。好きな時に好きなだけしてくれればいいよ」


「……分かった」


「ほら、もういつしてもいいぞ」


「そ、そじゃあ行くね……えいっ!」


 そう言って真白は俺に抱きついてきた。

 そう、俺たちが継続している習慣というのは、真白が俺に定期的に抱きついてくるあれのことだ。


 変なことを想像したかもしれないが、けっしていかがわしいことはしていない。


 夏休み前は学校に通っていたこともあり、俺と真白が抱き着くのは一週間に一回の間隔だったが、夏休みは毎日会っているし、お互いの家であれば誰かに見られる可能性も無いので毎日抱き着くようになった。


「ふぅっ。やっぱり颯一君に抱き着くと落ち着くなあ」


「……そりゃよかった」


 --いやもう付き合えよ!?

 なんで夏休みに入ってから毎日抱き着いてる男女がまだ付き合ってないんだよおかしいだろ!?


 いくら高校生とはいえ真白程の美少女に毎日抱きつかれていながら、それ以上のことに手を出していない俺にご褒美が欲しいものである。

 俺だって男なのだから、抱き着くより先の、普通のキスとか、深いタイプのキスとか、更にそれ以上を望んでいないわけではない。


 目の前に大好物をぶら下げられた状態で、俺の我慢は夏休みが終わるまで持つだろうか。


「見た目はそうでもないのに抱き着いてみるとすっごく男の子らしいんだよね。なんかもう岩に抱き着いてるみたいな?」


「岩は言いすぎだろ」


「でもそれくらいゴツゴツしてる感じするけどなぁ」


「逆に真白は線が細くて、でもやわらかさもあって女の子らしい体してるけどな」


「……なんか恥ずかしいね」


「ご、ごめん! 今の俺気持ち悪かったよな!?」


「そんなことないよ。私を感じてくれてて嬉しい。もっと抱き着いてたいって思っちゃうくらい」


 真白がそんな言葉を発した瞬間、真白の部屋の扉が唐突に開けられた。


「おーい二人に一日十個限定のケーキを買ってきたよー……ってあら、タイミング悪かったかしら」


 琥珀さんが真白の部屋に入ってきたタイミングは最悪なものだった。

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