第88話 気持ちの裏返し
前触れもなく突然俺の頬に触れた温かく柔らかい感触。
これがなんの感触なのかを考える間も無く理解できたのは、過去にこの感触をもっと敏感な部分で感じたことがあるからだ。
「真白!? 何やってんだ急に!?」
真白から突然頬にキスされた俺は、冷静にこの状況を分析し、冷静ではいられなくなってしまった。
いくら頬だとはいえ今回のキスはこれまでの事故的なキスとは異なり、真白が自らの意思でしてきたキスである。
その事実を考えるとさらに頭の中が混乱してしまうが、恋愛的な意味での好きではなかったんだよな? それならなぜ俺の頬にキスしてきたのだろうか。
真白の言ってることとやってることが矛盾しすぎてて、どれだけ考えても真白が何を考えているのかがわからないんだが。
「……颯一君に誤解されたくなかったから」
誤解というのは先程の好きという発言が、恋愛的な意味ではないということについてだよな?
それについては誤解なんてしていない。真白が俺に恋愛的な意味で好きだと言ったわけではないと理解しているし、それについては真白に直接伝えもした。
それなのに、真白が俺の頬にキスをしてきたことでまた誤解をしてしまいそうなのだが。
「誤解ってのはさっきの好きって発言についてだろ? さっきも言ったけど真白が俺のことを恋愛的な意味で好きだとおもってるなんて一切思ってないから安心してくれ」
「それだよそれ! 誤解しまくってるんだよ!」
「しまくってる?」
誤解されたくないというので、真白が俺のことを恋愛的な意味で好きだと思ってると勘違いはしていないことを伝えたのに、誤解しまくっているとはどういうことなのだろうか。
恋愛的な意味ではないと言ったり、誤解していると言ったり、頬にキスをしてきたり、真白が何を考えているのか本当にわからない。
「まあ恥ずかしくて否定しちゃった私が悪いんだけどね。あんな否定のされかたしたら誤解しても無理は無いと思うし」
「だから何を誤解したって言うんだよ」
「……ごめん。ちゃんと伝えるって決めたのに、この期に及んでまだ本当の気持ちを伝えるのが怖いって思っちゃってて……」
「言いずらいことなら無理して言わなくてもいいんだぞ?
「いや、これはしっかり伝えないといけないことだと思うから。じゃないと前に進めないなとも思うし」
「じゃあゆっくりでいいよ。言いずらいことを無理して急いで言う必要なんて無いし」
「……しない」
「え? なんだって?」
「好きでもない人のほっぺにキスなんてしない」
「--!?」
「だから誤解しないでよね!」
真白の発言は直接的に俺への気持ちを表現する言葉ではなかったが、裏を返せば俺のことが好きだと言っているようなものである。
えっ、じゃあ真白が先程言った『好き』という発言は俺に対する恋愛的な感情の込められた言葉で、その恥ずかしさを紛らわすために全力で否定していたということか?
その反応を見た俺が、真白は俺に対して恋愛感情を抱いていないと誤解しショックを受ける姿を見て、その誤解を解こうとしてくれたってことか?
「ごっ、誤解というかそれはどういう意味……」
「ほら、次のプール行こ!」
「え、ちょ、真白!? 何が何だか全然理解できてないんですけどぉ⁉︎」
真白はそのまま別のプールへと走って行ってしまい、結局真相を訊く機会を失ったまま帰宅することとなった。
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