第87話 恋愛的な意味
「いや、えっとね⁉︎ 好きっていうのはその……」
俺が真白の『颯一君らしくて好きだなぁ』という発言に対して『……え? 好き?』と訊いてしまったことで、真白は慌てた様子を見せている。
少し考えれば先程真白が言った『好き』という発言は、恋愛的な意味が込められているものではなく、俺の優しさの部分を好きだと言ってくれただけの発言にすぎないということは理解できる。
それなのに、『好き』という言葉に過剰反応してしまい、その発言の意味を真白に訊いてしまったので、真白を慌てさせる結果となってしまった。
「ご、ごめん。俺の優しい部分が好きってことだよな。自分でそう思ったことはないけどそう言われるのは嬉しいよ。ありが--」
「そうなの! 恋愛的な意味じゃなくて、颯一君の優しいところが好きだなって話だったの! 私の男の子に対する苦手意識がなくなってきちゃうくらいだから相当だよ! 本当に恋愛的な意味じゃないから!」
真白の男子に対する苦手意識がなくなってきたこと自体は、先程思わず真白の手を握ってしまった反応の通り喜ばしいことだ。
しかし、恋愛的な意味ではないと強く念押しされたのを無視することはできなかった。
恋愛的な意味での発言ではないと理解していたし、自分から真白にそうは言ったものの、そこまで念を押されて言われると俺には男しての魅力が無いと言われているようで流石に落ち込むな……。
ここまで本気で言うということは、先程の『好き』という発言が少しでも恋愛的な意味だと思われたことが相当嫌だったのだろう。
俺と真白の距離は、俺が酔っ払った真白を介抱したり、真白の家で焼き鳥を食べたり、王子と姫路をくっつけるため頑張ったり、真白の父親の話を聞いたりと、様々な出来事を通してかなり近づいたのではないかと思っていたが、それはあくまで友人の範囲でしかないということなのだろうか。
いや、でも定期的にハグしてるくらいだし、ただの友達っていうのも無理があるよな?
でも恋愛的な意味ではないって思い切り否定されてるし……。
かなり親しくなれていると思っていた真白から全力で恋愛的な意味ではないと否定されたことで俺の頭は混乱し、もうなにがなんだかわけがわからなくなっていた。
「あっ、うん、そうだよな……」
「えっ? えっと、その……」
「ごめんごめん、俺が変な勘違いして気まずい空気にしたよな。本当気にしないでくれ。俺なんかが真白に恋愛的な意味で好きだと思ってもらえるなんて思ってないから」
俺は卑屈モードへと突入してしまい、言うべきではないセリフが止まらない。
「そ、そのね? 恋愛的な意味じゃないっていうのはその……嫌いとかってわけではなくて……」
そんな俺の姿を見た真白は俺を気遣うような発言をするが、その発言がさらに俺の心を苦しくしてくる。
この状況で気を遣われても、自分のことがさらに惨めに感じてしまうだけだ。
「いいよ気を遣ってもらわなくて。俺のことなんて好きになる人間はっ--」
その時、卑屈モードが止まらない俺を止めようとしたのか、真白は俺の頬にキスをしてきた。
なぜ俺の頬にキスをしたのかはわからないし、口対口のキスではないが、このキスは事故でもなんでもなく、真白が初めて自分の意思で俺にしてくれたキスになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます