第92話 遺伝

 琥珀さんに掌の上で踊らされたこともあり、ウトウトはしてしまったが、なんとか完全に眠りに付くことは無く真白のおばあちゃんの家へと到着した。

 眠らないようにと奮闘している俺の横で居眠りしていた真白は、おばあちゃんの家に到着したというのに未だ目を覚ましていない。


「颯一君、ちょっとキスして起こしてくれる?」


「だからそういうとんでもない発言をサラッとしてくるのやめてもらってもいいですか? あとおばあちゃんの前では絶対にそういうこと言わないでくださいね?」


「ふふ。私が言わなくても……いや、なんでもないわ」


 琥珀さんが溢した笑いの意味が気になりはしたが、とりあえず真白を起こすことにした。


「とりあえずキスとかせず普通に揺すって起こしますね。おーい、到着したぞー。起きてくれー」


「……きぃ。しゅきぃ颯一君」


「--っ!?」


 真白の発言に俺は思わず飛び上がる。


 しゅきぃって好きってことだよな?  いやプールでも好きじゃない人にはキスしないって言ってたし好きなのは間違いないんだろうけど、これはどういう好きなんですか真白さん、というか俺まだ真白の夢に登場してるのか。出演時間がかなり長い気がするが。


「ブフッ。本当に面白いわね。こんな二人の姿を見たらおばあちゃんも喜ぶと思うわ」


「これのどこが嬉しいって言うんですか……」


 そのあと中々起きない真白を何とか起こして、寝言のことは黙ったまま車を降り、みんなでおばあちゃんの家の玄関へと向かう。

 そしてインターホンを押すと、中から「はーい」という返事が聞こえてきて、しばらくしてから扉が開けられた。


「みんないらっしゃい。よくきたわね」


「母さん、久しぶり」


「そうねぇ。半年ぶりだものね。真白ちゃんも久しぶり」


「うん、久しぶりおばあちゃん」


 真白のおばあちゃんは七十歳を超えているらしく、もう足腰が弱ってきてまともに歩けなくてもおかしくない歳だ。

 しかし動きに違和感も無く、余裕で百歳くらいまで生きるのではないだろうかと思えてしまう程に元気そうである。


「それで、君が颯一君かい?」


「はい。真白さんの友人の窪田颯一と申します。この度はお招きいただきありがとうございます」


「いやいや、私が琥珀に無理言ってお願いしたんだよ。真白ちゃんと仲のいい男の子がいるって聞いたら会いたくなっちゃってね。わざわざ遠いところまでありがとね」


「いえいえ、お招きいただき光栄です」


 真白乃木おばあちゃんは琥珀さんと同じく、男である俺を突っぱねたりとか見定めたりするわけではなく、真白の友人として快く迎えてくれた。

 話し方も優しいし、いつも俺を弄ってくる琥珀さんとは大違いである。


 なぜこんな礼儀正しい人からあんな人が産まれたのだろうか。


「それで、もう真白ちゃんとは済ませたのかね?」


「へ、何を--」


 あれ、この質問なんか既視感があるな。


 そんな違和感に気付き、真白のおばあちゃんが次にいう言葉に見当がついた俺は即座に真白のおばあちゃんが次に発する言葉を辞めさせようとしたが時すでに遅し。

 真白のおばあちゃんは真夏の気温を一気に低下させる発言をしはじめた。

 

「セックスに決まってるだろセックス」


 ……訂正させてくれ。

 やはりこの親にしてこの子ありである。

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