第83話 夏の定番

 夏休みが始まってから一週間が経過した今日、俺はとある更衣室の外で真白が着替え終わるのを待っていた。


 俺達は夏休みの間、真白がおばあちゃんの家に帰ってしまう一週間を除いて毎日会うことが決まっている。

 とはいえ、毎日のようにどこかに出掛けていては高校生でアルバイトもしておらずお小遣いをもらっているだけではお金が持たないということで、出掛けたり遊びに行くのは一週間に一度にしておいて、それ以外の日はお互いの家を交互に行き来することにした。


 琥珀さんにはオッケーをもらったみたいだし、俺の家も日中両親は仕事でいないので、真白と二人で会うには最適な場所なのだ。

 夏休みが始まってから一週間お互いの家を行き来した俺たちは、ゲームをしたり映画を見たり勉強をしたりと家でできることをして時間を潰している。


 そして今日は一週間に一度のお出かけデイで、俺たちは夏の定番であるプールへとやってきていた。


「お待たせ〜。ちょっと着替えるのに手間取って遅くなっちゃった」


「俺もちょっと手間取ったしそんなに待ってないよ」


「ならよかった--って颯一くんどこ向いてるの?」


「いや、ちょっと首寝違えててさ」


 嘘である。

 俺はただでさえ可愛い真白の水着姿を直視したら可愛いが爆発しすぎて冗談抜きで死んでしまうと思っているので、直視しないように視線を真白から別の場所へと移しているのだ。


「えっ、大丈夫?」


 そんな俺の想いとは裏腹に真白は俺の体を気遣い俺が視線を向けていた方向へひょこっと姿を現す。

 そして不意打ち的に真白の姿を直視してしまったは致命的なダメージを負った。


「ガハッ⁉︎」


「ちょ、ちょっと大丈夫⁉︎」


「あ、ああ。大丈夫大丈夫」


 大丈夫なわけがない。 

 水着姿の真白はあまりにも露出が多く、本当であればそんな真白の水着姿を目に焼き付けたいところなのだが、一度見ただけでこの威力。

 とてもではないが今日一日ずっと一緒にいて耐え切れるとは思えない。


 そのうえ着ている水着が似合うのなんの。

 ヒラヒラとしたレースがあしらわれたビキニは、真白の雰囲気によく似合っていた。


「そう? じゃあ行こっか」


 そう言って俺の前を歩き出した真白へと視線を移す。

 後ろ姿であればかろうじて真白の姿を見ることができるが、それでもその破壊力は相当なもの。


 白くスベスベな背中はもちろん、臀部へと目を移すと一歩一歩歩くたびに揺れ動く可愛らしいお尻が俺の鼓動を早くさせる。

 鼓動が早くなるだけで我慢したけよ俺、息子まで目を覚ましてしまったら水着だけでは隠しようがない。


「ね、ねぇ颯一君」


「んっ? どうした?」


「私ね、実は泳げなくて……。浮き輪に入って浮かんでるから押しててくれない?」


「えっ……?」


真白がかなづちなのは問題ない。

 問題なのは、真白の水着姿を至近距離で見なければいけないことである。

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