第84話 タイミングの問題

 流れるプールに入った俺は、真白が入った浮き輪に手をかけながら流れに身を任せていた。

 浮き輪にはしっかり手をかけながら、真白の体に自分の手が触れないようにする塩梅が非常に難しい。


「ごめんね、せっかくの夏だし颯一君とプールに行きたいなと思ってたんだけど、泳げないって言っちゃったら行けなくなっちゃうと思って……」


「気にしなくていいよ。俺も真白とプール来たかったし。それに周りの人もみんな浮き輪に入って流されてるだけだしな」


 平静を装って会話をしてはいるが、俺は相変わらず真白を直視できずにいた。

 それがまた浮き輪に手をかけながらも真白の体に触れないようにするのを難しくしているのもあるが、直視できていないからこそ周りの状況がよく見えている。


 そんな中でも真白以外の女性に視線を奪われることがないのは、俺にとってそれだけ真白が魅力的で、心を奪われているということなのだろう。

 というか真白以上に魅力的な女性がプール中を見渡しても見当たらないんだが? 真白レベル高すぎないか?


「流されてるだけでもこんなに楽しいんだね。颯一君といるからかな?」


 クソッ、真白はこんなに純粋で名前の通り純白な心を持っているというのに、俺と来たら邪な考えばかりで自分が嫌になる。

 真白の水着姿を直視できずプールを楽しめないなんてことになってしまっては今日プールにやってきた意味がないし、ずっと邪な考えが頭を埋め尽くしているのも真白に対してあまりにも失礼なので俺は思い切って真白の水着姿を直視した。


 そして俺は真白が更衣室から出てきた時に言い忘れていた、というか真白の水着姿に大ダメージを受けて言えなかったセリフを真白に伝えることにした。


「……真白」


「どうしかしたの?」


「その水着、めちゃくちゃ似合ってる。可愛い」


 正直な感想を伝えると、真白は驚いたような表情を見せてから話し始めた。


「……ふふっ。ありがと。どの水着を選んだら颯一君に喜んでもらえるだろうなと思って選んだ水着だったから、そう言ってもらえて嬉しい」


 --っ。


 何だよそれ、こんなラブラブな会話をしている男女が付き合っていないなんてことが現実にあり得るのか?

 俺が同じ状況の男女を見たら間違いなく『早く付き合えよ!』とツッコミを入れているだろう。


 ……というかこれ、真白はもう絶対俺のこと好きだよな?

 そうでなければ俺に可愛いと言ってもらうために水着を選んだなんて発言はしないはずだ。


 俺の中で真白に対する感情が沸々と湧き上がってきているのがわかる。

 突然真白に対する気持ちが昂ってきた俺は、この感情を真白に伝えずにはいられなくなっていた。


「真白、俺さ……」


「ん? なに?」


 この感情を言葉にするならもう今しかない。

 一度気持ちを沈めてしまったらまた同じように気持ちが昂った時にしか気持ちを伝えることなんてできないだろう。


 本当は花火大会の時に気持ちを伝えるつもりだったが、気持ちを伝えるのが多少早くなったって問題は何も無い。


「俺、真白のことがっ--」


 まさに俺が真白に気持ちを伝えようと話し始めたその時だった。

 流れに任せてプールを流れていた俺たちの元に、突如としてやってきた大きな波が俺たちを飲み込んだ。

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