第80話 ポケットの避妊具
色々あったがようやく真白の部屋にたどり着いた俺は、真白とカレンダーが置かれた机を囲んで夏休みの計画を立て始めた。
真白と過ごす初めての夏休みなので集中して計画を立てたいのに、そうさせてくれないのが琥珀さんから受け取った避妊具である。
断るわけにもいかなかったので受け取るだけ受け取りはしたが、こんなものがポケットに入っていたら集中できるはずがない。
とにかく真白がポケットの中にある避妊具に気付かないように気を付けなければ。
「この週は私おばあちゃんの家に行ってるから……この週以外なら全部会えるよ」
「あ、ああ。そうか」
「颯一君の予定はどう?」
「えーっと……俺は特に予定ないからいつでも会える」
「じゃあ毎日会うとして、どこで会うかが問題だね」
「ああ……。そうだな」
「……颯一君、もしかして毎日は会いたくない?」
「--ち、違う! 俺はなんなら真白のおばあちゃんの家に着いていきたいと思ってるレベルで毎日会いたいと思ってる!」
ポケットの中にある避妊具を気にしすぎて真白との会話が疎かになってしまったせいで真白を不安にさせてしまった俺は、真白から訊かれた内容を必死に否定した。
「じゃあ体調でも悪い? 元気なさそうに見えるけど」
「体調は万全なんだけど……真白と過ごす夏休みが楽しみすぎて思わず表情が緩みそうだから緩まないように力入れてた」
俺が真白との会話に集中できていなかった一番の要因はポケットに入れられた避妊具だが、真白と過ごす夏休みを想像すると表情が緩みそうで表情が硬くなっていたのは事実なので、嘘は言っていない。
「ぷっ。何それ、そんなに楽しみなの?」
「……楽しみだよ。こんなに夏休みを楽しみだと思ったのは初めてだからな」
俺はこれまでまともに夏休みを楽しんだことがない。
そりゃ家族とはどこかに出かけたりっていうこともあったけど、友達と夏休みの大半を過ごすなんてことはしたことが無い。
だからこそ、真白と過ごす夏休みが楽しみで仕方がないのだ。
そんな気持ちを隠しておく必要は無いと、俺は正直に自分の気持ちを伝えた。
「ふふっ。そう言ってくれて嬉しい。私も今年の夏休みが今までの夏休みで一番楽しみだし……ほら、見てよ私の顔。もうすでに表情緩み放題でしょ?」
避妊具に気を取られて気付いていなかったが、真白の表情は緩みきっている。
俺との夏休みを楽しみにしてくれているのも嬉しいが、こんな真白の表情を俺が引き出しているという事実がたまらなく嬉しい。
この表情を誰にも見せたくないと思ってしまうのはせめて真白の彼氏になってからでなければあまりにも迷惑なので、その気持ちは隠しておくことにした。
これ程可愛くて俺のことを大切に思ってくれている真白と二人で夏休みの計画を立てるなんて楽しいに決まっているのに、避妊具に集中しすぎて楽しめないのはもったいない。
それにこれ以上真白を不安にさせるわけにもいかないので、一旦避妊具のことは完全に忘れて会話をすることにしよう。
「ははっ。真白の表情見たらせっかく我慢してたのにもうダメだわ俺も」
「ふふっ。本当だ。すっごくニヤニヤしてる」
「ごめん、もう大丈夫だから夏休みの計画を立てるの再開しようか」
「うん、そうだね。それじゃあさっき話しかけてたことだけど、私がおばあちゃんの家に行っている日以外は毎日会うとして、どこで会うかだよね」
「そうだな。基本は俺と真白の家になるだろうけど、どこに出かけるとか細かく決めといてもいいかもな--ってごめん、電話だ」
夏休みの計画を立てるのを再開したところでポケットの中でスマホが振動し、俺はポケットからスマホを取り出して画面を見た。
それは亜蘭からの着信で一瞬このまま電話を切ってやろうかとも思ったが、何か大事な話かもしれないので電話に出ることにした。
「亜蘭だ。ごめん、再開したばっかで悪いけどちょっと出るわ」
「--えっ⁉︎」
「--え?」
真白の大きな声に俺がスマホの画面から真白へと視線を移すと、真白は何やら床を見て開けた口を両手で塞いだ。
何に驚いているのかと俺が真白の視線の先へと視線を移すと、そこにあったのは先程俺が琥珀さんから受け取った避妊具だった。
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