第79話 渡された物
汗だくになりながらも真白の家に到着した俺は、持っていたハンカチで汗を拭ってからインターホンを鳴らした。
それから二十秒程して、真白が扉を開けて出てきた。
「いらっしゃい。入って入って」
ぐぅぅぅぅっ。真白の可愛さが眩しすぎるっ。
夏休みに突入し一年の中で最も強い日差しが差し込む時期ではあるが、真白はその何十倍も何百倍も眩しい光を放っている。
真白の輝きがあまりに強すぎて、俺は思わず手でその輝きを遮るような仕草をした。
「……? どうしたの? 入らないの?」
「い、いや。なんでもない」
「そう? じゃあ部屋行こっか」
俺が変な行動を取っているので真白は疑問符を浮かべていたが、真白の輝きを眩しく思っていることには気付かれずに済んだ。
思わず気を失ってしまいそうなレベルの眩しさに、意識を保つことができただけでもよく耐えたと自分を褒めたい。
真白のような美少女と、お互いの家に行き合うような特別な関係になれていることが未だな信じられないな。
「久しぶりね」
リビングの扉を開けて出てきたのは琥珀さんだ。
顔を合わせるのは約一ヶ月ぶりとなるが、相変わらず綺麗な人だな。
前回会ったのは突然のことだったので焦っていてそんなことを考えはしなかったが、この親にしてこの子ありと言った感じだ。
琥珀さんの清楚な雰囲気が真白にもしっかりと受け継がれている。
今日家に琥珀さんがいることは知っていたが、改めて見る琥珀さんが美人すぎて急に緊張してきた。
「あっ、お久しぶりです」
「いいのよ緊張しなくて。私は真白が選んだ男の子なら誰だって大歓迎なんだから」
「えっ、選んだっ--」
「ちょっ、ちょっとお母さん⁉︎ 私と颯一君はただの友達なんだからね⁉︎ 変なこと言って困らせないでよ!」
たっ、ただの友達……。
わかっている、真白が琥珀さんに俺たちが付き合っていないことを伝えるために言った言葉だということはわかっている。
それでもただの友達という言葉に多少ショックは受けるわけで……。
「ただの友達、ねぇ」
「もうっ。ごめん颯一君、私先行ってるから」
琥珀さんに愛想を尽かした真白は、俺を残して先に自分の部屋へと歩いて行ってしまった。
まだ緊張している状態で琥珀さんと二人きりにされるのは気まずいのでやめてほしかったが、これは丁度良いタイミングだと思い俺は気になっていたことを訊いてみた。
「あっ、あの……」
「……大丈夫よ。もう男の人と関係を持ったりはしてないわ」
琥珀さんは俺が質問を言う前に俺が訊こうと思っていたことを答えた。
俺の不安そうな表情から、何を訊こうとしていたのかを読み取ったのだろうか。
前回真白の父親の話を聞いた時、琥珀さんはもう男の人と関わりを持つのはやめにすると言っていた。
その言葉が嘘ではなく、本当に実行されているかどうかが気になっていたのだ。
真白のためにもし男の人と関わりを持っているのだとしたら、どうにかして関係を断つように呼びかけなければならないからな。
「えっと……それならよかったです」
「颯一君がいるならその必要も無いしね」
「そっ、それはまだどうなるかわかりませんから。僕次第というか真白次第というか……」
「大丈夫よ。自信持っていきなさい。真白の母親が言うんだから間違いないわよ」
「……ありがとうございます」
「あっ、あとこれ」
「……?」
琥珀さんは何やらポケットに手を突っ込むと、何かを取り出して疑問符を浮かべている俺にそれを手渡してきた。
「これはなんですか?」
「避妊具よ」
「ひにっ⁉︎ なんてもん渡してるんですか⁉︎」
琥珀さんが渡してきたのはまさかの避妊具だった。
避妊具がどのように包装されているかは知っているが、真白の母親からそんなものを手渡されるとは思っておらず琥珀さんに言われるまできづかなかった。
「何よ。自分の娘がセックスする時に避妊してほしいと思うのは当然のことでしょ?」
「ま、まだ付き合ってないですしそんなことするわけないじゃないですか‼︎」
「じゃあ早く告白して付き合えばいいだけじゃない」
「だっ、だとしても! 学生には早すぎます!」
「そうかしら。私の知り合いの子供たちはみんな学生のうちに卒業してるらしいわよ?」
「……自分の娘をもっと大切にしてくださいっ」
「ふふっ。楽しい夏休みになるといいわね」
「……ありがとうございます」
もちろん真白と体の関係を持とうとは思っていないが、好意を無駄にするわけにもいかないと琥珀さんから手渡されたものをポケットに隠して、俺は真白の部屋へと向かった。
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