第75話 受け取ったバトン

 亜蘭一人に説教されたり夏休みをどう過ごすかを考えてもらったりするのはまだ理解できるが、夏休みの計画を考えるだけでなぜ三折に王子と姫路までやってきたのだろうか。


 というか夏休みになって真白と会えないことには明日になれば気付いていただろうし、亜蘭にも夏休みの計画を考えてもらう必要は無いんだが。


 そんなことを考えていると、真剣な表情をした亜蘭が俺に訊いてきた。


「なぁ颯一、お前気付いてるか?」


「……? 気付いてるって何に?」


「……はぁ。まさかとは思ってたけど本当に気付いてなかったのか」


「いやだから何に気付いてないって言うんだよ。俺そんなに重要なこと見逃してるか?」


「見逃しすぎだわ。王子と姫路だって気付いてるぞ」


 亜蘭の横に座っている王子と姫路はうんうんと頷いている。


 王子と姫路は気付いていて、俺に気付けていないこと……?

 どれだけ考えても俺が気付かなければならない重要なことなんて思い浮かばないんだが。


 まだ関わりだしてそこまで時間のたっていない王子と姫路でもわかるなら俺にもわかりそうなものだが。


「だからなんの話なんだよ。何が何だかさっぱりなんだが」


「ちなみに天川もまだ気付いてないらしいぞ。似たもの同士ってのは相性がいいっていうしよかったな」


「真白も? 俺にも真白にも関わってくることなのか?」


「そんなの当たり前だろ。そうじゃなかったらこんな話してないわ」


「えぇ……。いやほんとにわかんないわ」


 どれだけ考えても俺が気付かなければならないことがなんなのかわからず頭を抱えていると、亜蘭と三折が目配せをしてから話し出した。


「……俺と三折、付き合ってる」


「……突き合ってる? フェンシングでもしてんのか?」


「いや白黒はっきりしようとさせてねぇよ」


「じゃあ餅でも?」


「息ぴったり! じゃなくて。俺と三折が恋人になったって話だよ」


 恋人ってのはあれか……。いや、流石に勘違いするのも無理がある。

 亜蘭と三折はどちらからか告白をして、お付き合いすることになったというわけだ。


「--はぁ⁉︎ 亜蘭と三折が⁉︎ いつから⁉︎ そんな話今初めて聞いたぞ⁉︎!」


「付き合い始めたのは一ヶ月くらい前からだ」


「そんなに前から付き合ってたのか⁉︎」


「颯一には言わなくてもすぐ気付かれると思ったんだよ! それに俺からそんなこと言ったら焦らしちまうと思ってな。どうせ気付いてくれるだろうしと思ってあえて言ってなかったんだ。そしたらおまえ全く気付かねぇからさ……」


 亜蘭は俺が自分のペースで恋愛をできるように、亜蘭の話を聞いても焦らないように配慮してくれたのだろう。

 亜蘭の一番近くにいるはずの俺がそんなことに気付かないなんて、友達失格である。


「……ごめん。早く気付くべきだった」


「謝んなくていいよ。早く気付いたからなんだって話だしな。それよりさ、俺が何を言いたいのかはわかるだろ?」


 亜蘭と三折が付き合ったとなれば、今日参加しているメンバーの中で付き合っていないのは俺だけとなる。

 その状況が理解できれば、亜蘭が俺に何を言いたいのかは言わずとも理解することができた。


「……ああ。心地のいい現状を手放したくなくて真白との関係を進展させようとしてなかった俺とはもうおさらばだ。俺は夏休み中に真白に告白する」


 これは王子と姫路から、そして亜蘭と三折から受け取ったバトンである。

 そのバトンを大切に繋いで、何があっても絶対にゴールしてみせる。

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